今の世の中では、駅の入場や電車への乗車は自動改札であったり、電子マネーのICチップを使って入退場するので、入口と出口だけの分の切符や入場券を買って途中経路分の運賃や特急券分のお金をごまかす「キセル乗車」のようなごまかしが効かなくなっていると思います。
機械をごまかそうとする人間の知恵も、自動改札やICチップではそのデータが残ってしまうため、その場は逃れられたとしても後で確認されたらアウトです。鉄道会社側も、瞬時に不正を指摘するためのシステムや機械の改良を続けていますので、将来的には自動改札のない無人駅が存在しなくなれば、個人的にはキセル乗車のための努力をすること自体が無駄で自分の立場を危うくするものでしかないと認識すべきでしょう。
急にこんな事を書こうと思ったのは、先日のニュースで一人ではなくかなり大規模な集団でキセル乗車を行なっていたとして20代の男性を逮捕したというニュースがあったからです。これは、ネットによるコミュニケーションが普通に利用できる現代ならではの方法ですが、遠方から特定のアーティストのコンサートに来る場合に、コンサート会場の最寄りに住んでいる同じアーティストのファンとネットで連絡を取り、駅のホームでその駅の入場券を受け取ることにより、見事に中ヌケのようにして途中の経路分の交通費をまるまる払わないように「キセル乗車」を成立させていたということです。
しかし、一人で改札を通るのに複数の入場券を自動改札に通していたとしたら、かなり不自然な行為だと思われても仕方ないでしょう。そうしたことで駅員からマークされ、入場券のやり取りの現場を抑えられた可能性もありますし、本人は見付かっていないと思っていても、目視だけでなく監視カメラで見られている可能性もあります。もし行為そのものを見られていなかったとしても、同時に通した入場券そのもののデータが不正使用の証拠になってしまう場合もあるかも知れません。
逮捕された人が入っているお互いに不正乗車を行なったり手助けしたファンのグループは数百人と言われ、今回逮捕された人自身も4年間で約150回繰り返していたということなのですが、なぜこんな事がわかるのだろうと改めて考えなくても、キセル乗車のための打ち合わせをメールやSNSで行なっているとしたらそのデータを解析することによって発見は可能です。今回逮捕された人のスマホを没収し過去にさかのぼっての犯罪行為らしきやり取りを見付け、駅に設置している監視カメラの映像などと照合しながら証拠固めをされた件数が150件だったとしたら、捜査する方々の執念が感じられるとともに、今後数百人いるという不正乗車やキセル乗車を行なった方々はことごとく摘発されることが予想されます。
今回摘発のあったアイドルグループに関連するケースでなくても、心当たりのある方は早めに自首されることをおすすめしますが、こういった事が報道されることで感じることがあります。それは、不正を行なう側が最初の成功体験に味をしめ、回数や規模がエスカレートしていくという今までそうした行動とは無縁であった人や若年層の人たちにありがちな楽観的な考えです。
最初に書きましたように、自動改札を通した入場券や乗車券については、きちんと記録が残るため、入場と出場の時間が不可解な感じでかかっている場合には、自動改札から出ようとしても止められます。私自身の話で恐縮ですが、東京に出掛けた時にかなり時間を持て余すことがわかって出掛けたことがあったので、不正乗車でないJRの規則に則った「大回り乗車旅行」を行なったことがあります。これは、山手線上で隣の駅まで行くのに初乗り運賃の切符を買い、反対方向へ進みつつ同じ駅を通らず、さらに途中下車もしないで一筆書きの経路で進み、隣の駅をゴールにするというものです(大都市の近郊区間ではこうした大回りでの利用が禁止されていません)。最近ではいわゆる「エキナカ」の商業設備が充実していますので、食事もおみやげもすべて改札を通った駅構内で済ますことができるので、以前と比べると大回りの旅も楽になったと思います。
問題なのは大回り旅行を終えて目的地の駅から出る時です。本来なら5分も掛からないで到着できる隣の駅に着くまでに数時間かかっているわけですから(そのため自動改札を通れず、有人改札を通る必要があります)、有人改札の駅員さんもそのまま出ようとしても「ちょっと待って」と言うしかないでしょう。
そうした不信感を払拭するために、このような大回り旅行を考えたら、どのような経路でどの駅を通ってここまで来たかという行程表を作っておき、車内で検札があった時にはきっぷと一緒に見せたり、最後に有人改札を抜ける時に駅員さんにその行程表を見せながらこれまで通ってきた経路の説明をして、不正乗車ではないことを確認してもらって出る必要があるのです。このように全く問題のない乗り方であってもその行為をしっかりと説明できないと不正乗車をしたことにもされかねない事もありますので、どれだけ鉄道会社が不正乗車対策をされているかという事はおわかりいただけるかと思います。
今回のキセル騒動はそれなりに乗車券の仕組みについて熟知した人も関与していて、巧みに切符に自動改札を通さないことで摘発された場合の抜け穴を作っている可能性もありますが、今回はこれだけ関与した人数が多いので、SNSなどのデータを解析されることで自分はキセル乗車はしていないとされても、人のキセル乗車を幇助した罪を受けることも十分考えられます。顔と名前が報道されることでの影響もありますが、不正乗車した料金の3倍の金額を鉄道会社に支払わねければならないペナルティも課せられるわけで、一時は交通費が安く済んだと思っていても結果的に高く付くことに今回のケースではなっています。
私自身はいろんな可能性を考え、新幹線・在来線(青春18切符の時期など)・長距離バス・自動車というような感じで交通手段を変える事を考えますが、若くて何事にもめげない体力があり、アイドルのグッズにお金を掛けすぎて交通費がないというなら、安易に不正乗車をしようと思うのでなく、もっと現実的に同じ地域にいるか、コンサートに参加するために居住地を通る予定のネットで知り合った仲間に車を出してもらい、定員まで人を乗せて行くことでガソリン代と高速代を人数分で割り、エコノミークラス症候群に気を付けながら車中泊ありの車での格安移動を試みた方がよっぽどいいのではないかと思うのですが。
昔から不正乗車を巧みにしながら出掛けている人はいましたし、今後もなくなることはないでしょうが、すぐには発覚しなくても過去にさかのぼって罪に問われるのが現代の恐ろしさであり、相当割りに合わない不正乗車やキセル乗車であることを十分に自覚していただきたいと改めて思います。