色々と問題が挙がる東京オリンピックですが、このまま開催されていれば間違いなく感染者数は増えると思うので、東京在住の方は今だけではなく今後の事を考えると大変だと思います。ただ、家に居てテレビを付けるとほぼオリンピック放送になっていて、つい目に入ってしまうこともあり、今回は単なる「スポーツの素晴らしさ・感動」とは違ったスポーツの闇の側面について書いてみたいと思います。
今回オリンピックの種目にも色々ありますが、基本的には選手の体力・技術によって優劣が決まると思いがちです。しかし、近年の用具の進化によって、それ以外の「道具」によって優劣が決まる場合があります。今は使えませんが、水泳のレーザーレーサーの水着を着ると早く泳げるということがありましたが、これについては水着の使用が禁止されることになったことは多くの方がご存知の事だと思います。
今回オリンピック種目になっている競技の中でも、用具によってその結果がまるっきり変わってしまうものに、最近日本でもメジャーなスポーツになりつつある「卓球」があります。卓球のラケットは、昔は木の板でそのまま打っていた時代もあったそうですが、戦後の日本が世界のタイトルを総ナメにしたのは、卓球というスポーツが日本人の体格に合っていたということもあるのですが、ラケットに貼るラバーについての規定がなかっとこともあり、板より分厚いスポンジをラケットに貼り、打球の威力を何倍にも増やして速攻の卓球を作り上げたことにもその原因がありました。それまでの卓球はラリーを続ける我慢比べのような守備型の選手が多かったのですが、日本選手が自身のサーブが返ってきた球を強打して打ち抜く戦術で、あっという間にテンポの速い打ち合いへと状況は変わりました。それと同時に今まで全く規定のなかったラバーの厚さについての規定が定められ、日本で使われていたスポンジラバーの使用も禁止されました。
ラバーの進化というのはそこからも色々あり、現在ではおおよそ二つの種類になっています。まず反発力が良いものの回転がかかりにくい表面に粒がある「表ソフトラバー」(伊藤美誠さんが片面に貼っています)、表ソフトラバーの粒を高くして相手の打球の力を使って変化する球が打てる「粒高ラバー」(主に守備選手が使用しましたが、福原愛さんが片面に貼って非常にいやらしいボールを打っていました)、そして普通の選手が両面に貼る粒の方を反対向きに貼った回転がかかり反発力もそこそこあるオールマイティーな「裏ソフトラバー」が現在は主流です。かつては裏ソフトラバーながら普通に打っても反発力も少なく回転もかかりにくい「アンチラバー」なんてものもあり、あえて両面を同じ色のラバーにして、どちらで打つかをごまかしながら試合をする人もいましたが、現在のルールではラケットの両面に貼るラバーの色は同色にすることは禁じられています。このように、卓球のスポーツとしての変遷には道具の進化の側面もあり、道具の力を最大限に使って勝とうとする人たちも過去だけではなく今もいるという事があるのです。
かつて、日本の水谷隼選手が国際試合をボイコットしたことがありました。なぜボイコットしたのかというと、世界で卓球の試合に出てくる人の中に、通常のラバー(市販されているもので国際ルールに沿ったもの)に「補助剤」と言われる薬剤を塗り、普通にラケットに貼ったラバーよりも補助剤の力で威力を上げている人がいることを告発しました。本来ならばそうした行為はルールで禁止されていますので、補助剤の使用がわかれば反則負けになると思うのですが、選手のドーピングと同じで試合前・試合後の検査で検出されない薬剤を使った補助剤を使っている場合、そうした補助剤を使っていない人からすると明らかにおかしいと思われるのにその選手が処分されることなく国際大会で好成績を上げているのはおかしいと告発したのです。
ちなみに、そうした告発をした水谷隼選手は補助剤を使わずにリオ五輪の個人銅メダルと、東京オリンピックの金メダルを獲得しました。恐らく、水谷選手はオリンピックが終わり国際舞台から離れた後に、何かしらのアクションを起こすのではないかと思っています。今までは世界の頂点に立てない状況での告発だったこともあり「負け犬の遠吠え」のような感じで告発が見られていたこともあったかも知れないのですが、今後もしオリンピックの金メダリストによるこの告発が取り上げられれば、道具に関してのアンフェアな状態が改善されることで各国の実力は拮抗すると思うので、この問題が多くの人に知られ改善されていくことで、さらにこの卓球という競技も面白くなっていくだろうと思われます。
今回、その水谷隼選手のSNSに誹謗中傷がされたことが問題になりましたが、恐らく水谷選手がぼかした誹謗中傷書き込みをした「かの国」の人というのは、かつてラバー補助剤問題でやり玉に挙がった当該選手の所属する国からのものではないかと思えてしまいます。こうした事情を知らない人からすると、水谷選手側が単に難癖を付けているように思えるかも知れず、感情的に悪いものが今回の金メダル獲得で爆発してしまったという風にも考えられるのですが、検査を通っても不正な処理をした道具を使い続けている人たちが試合で勝ち続けることが今後も変わらないのならば、卓球というスポーツはオリンピックの種目としてふさわしいのか? という話にもなってくるだろうと思います。どの世界にも闇はありますが、今回のオリンピックがきっかけとなって、物事が良い方向に変わっていくことを祈っています。