倉敷市の段ボールベッド導入の英断と「次の段階」

TBS系の「報道特集」というニュース番組の取材で、西日本豪雨の被害を受けた地域の中で、かなり早い時期に住民の方々が過ごしている避難所において、全て段ボールで作られた「段ボールベッド」および、ラップの芯のように固い筒を組み合わせ、そこに布を通すことでカーテンのようにうまく仕切りにしたパーティションキットの導入の様子をレポートしていました。

学校の体育館などに避難した住民の方々は、今でも直接床に寝るようになっているところが多いのですが、これだと床面のホコリが舞い上がり、そのホコリを直接吸ってしまうことによる体調不良が出る恐れがあるばかりか、硬い床に直接寝ることでエコノミークラス症候群によって体内に血栓ができてしまう恐れもあります。また、床に直接座ったり寝転ぶと立ち上がるのが大変ですが、高さのあるベッドならいったん座った状態から簡単に立ち上がることができます。そうした避難所の環境を少しでも良くするために段ボールベッドをすぐ避難所に設置できた背景には、過去に新潟大学まで行ってブログで紹介させていただいた新潟大学の榛沢和彦氏らが関わっているダンボールベッド供給のためのプロジェクトの方々が倉敷市長宛にファクシミリを送り、その内容について有益な事業だと感じて市長が即決したためだと番組では紹介されていました。

これは、それこそ東日本大震災前後の大規模な災害が起こった後の避難所内や、避難所に入らずにシートがフルフラットにならない車の中で車中泊を続けることによってせっかく助かった命がエコノミークラス症候群や感染症で失なわれてしまう事について、段ボールベッドである程度は対策可能だということが知られてきたということが言えるでしょう。避難所を使っている人にとっても家族単位で他人の目を避けられる空間ができ、手足を伸ばして寝られ、さらに寝ていて起き上がる時にも体への負担が少ない段ボールベッドはいわゆる「災害後の災害関連死」を防ぐためには有効であることは確かなのですが、それこそ私のブログで段ボールベッドのことを紹介させていただいた時にコメントとして指摘していただくほど、別の危険があるということも考えなければいけません。それが、避難所から火が出た場合にどうやって段ボールベッドへの延焼を食い止め、避難所にいる人達の命を守るかという問題です。

火災が起こる原因は様々ですが、ここではあえて「放火」の可能性については除外して考えます。過去に火事の一番の原因として恐れられたのが「タバコ」で、特にベッドサイドでの寝タバコによる火災はあの「ホテルニュージャパン火災」の原因にもなりました。ただ、現在の日本は喫煙者は公共の場所でタバコを吸えないような形に法律も変わりつつあり、避難所にいる人達の喫煙に対する意識の変化もあるので、昔と比べるとタバコが原因で火災が起こることは少なくなりました。また、タバコを吸わないとマッチやライターの用意もいらないので、まだマッチやライターの扱い方を知らずにいたずらをして火災になってしまう可能性も減ってきているとは思います。避難所では禁煙を徹底することも十分有りでしょうし、どうしても喫煙所を設ける時にはできるだけ人のいる場所から離して喫煙所を設置し、ライターは喫煙所から持ち出さないようにするなど、タバコによる火災を避難所で起こさないように最初から災害マニュアルの中に入れておくことも必要でしょう。

また、地震の後の避難所設置において、ライフラインが復旧していても漏電の可能性やガス管のひび割れなどはないのか、しっかりと確認してから避難所として使うことも大事でしょう。もしこうした確認をしないで漏電による火災を出してしまったら、それは自然災害ではなく人災と言えます。

以前はこのように火災が起こらないように原因になるものをシャットアウトしていけば、何とかなるのではないかと思っていたのですが、実はここ数年でちょっと深刻な火災の原因になるかも知れないグッズが台頭してきました。災害の後には情報収集のためのツールとしてほぼ全ての家庭で持つ人がいるのがスマートフォンやタブレット端末だと思うのですが、スマートフォンを充電する「モバイルバッテリー」が原因の火災事故がニュースにもなっているのが気がかりなのです。

問題は劣化したりきちんとした製法で作られていない不良のバッテリーを使い続けることもあるのですが、もう一つの問題は、カバンの中でスマホと接続した状態のままで長時間放置したことにより、モバイルバッテリーやスマホ自体の温度が著しく上昇し、ショートして発火するようなことが日本でも起きています。

実はこれと同じような状況が避難所の段ボールベッドの上でも起こりかねないという事があります。布団や毛布を掛けて寝ながらモバイルバッテリーにスマホをつないだままにしてスマホを使っていて、そのまま寝てしまうような事があると、相当モバイルバッテリーやスマホの温度が上がってしまう可能性があります。たまたまそのようにして使っていたモバイルバッテリーがショートしやすい不良品だったとしたら、今の避難所でも常にバッテリーから発火する火災が起きるかも知れない状況があるということがおわかりでしょう。そして、現状の段ボールベッドではいったん火が付いてしまったら、過去に美術作品として作られたおがくずが充満した木製ジャングルジムで火災が起き火がすぐ回ってしまったように、避難所に暮らす人の生命に危険が出てきてしまいます。

タバコと違ってスマホを充電するなとは避難所では言えないでしょうから、それこそ避難所内で充電する場合には避難所の方で用意した安全なモバイルバッテリーを運営者の方で管理して満充電したものを渡すようなルールが必要になってくるかも知れませんが、そうしたルールを知らなかったり、自分の持っているバッテリーを隠れて使われるとどうしようもありません。もしボヤでも避難所内で起こってしまった場合、テレビや新聞のニュースでセンセーショナルに報道されるかも知れず、そうなると火災で燃え広がる危険性がある段ボールベッドでは恐いという人の意見が起こり、また元の床に直接寝る状況にもなりかねません。

そんな中、紙なのに燃えにくいという防災用段ボールというものを開発した企業があって、実際に防災用ということで地方自治体に売り込んでいるという話があるのを知りました。その内容は以下のリンクからご確認下さい。

http://www.rengo.co.jp/news/2013/13_news_015.html

もし今回の段ボールベッドを製造・発送している業者と燃えにくい段ボールの技術を持っている業者がタッグを組み、いざという時には燃えにくい段ボールで作った段ボールベッドやパーティションキットが避難所に設置されるベッドのデフォルトになるようなら、多少は安心できます。ただ、現状よりも製造コストは高くなってしまうでしょうから、そのコスト高分を誰が負担するのかということも考えなければいけません。

海外のように家族ごとにテントを支給し、中にキャンプ用のコットを設置してもいいとは思いますが、そこまでの資金力を持った地方自治体というのは稀だと思うので、やはり単価の安い段ボールベッドのアイデアは葬って欲しくありません。実際問題、段ボールの上でモバイルバッテリーが発火することを想定して、ベッドの天板だけを燃えにくい段ボールにした場合どうなるのかとか、あるいは全く別の新たな防火対策を考えられるのか、まだまだ改善の余地があるのではないかとも思えます。そんな風に少しでも快適に避難生活を送れ、さらに安全性も高めるような方法についても多くの人が考えてよりよい結果が出ることを期待するところです。


カテゴリー: 防災関連ニュース | 投稿日: | 投稿者:

てら について

主に普通の車(現在はホンダフィット)で、車中泊をしながら気ままな旅をするのが好きで、車中泊のブログを開設しました。車で出掛ける中で、モバイルのインターネット通信や防災用としても使える様々なグッズがたまってきたので、そうしたノウハウを公開しながら、自分への備忘録がわりにブログを書いています。

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