「送料無料」が普通ではない。「送料を誰が負担するのか」が問題だ。

日本におけるネット通販が一般化されるにあたり、少し前までは実店舗との商品の価格比較を行なう場合、消費税込みの価格にプラスして「送料分」を追加して店頭価格と比べることが当り前でした。しかし、一部のネットショップで「送料無料」をキーワードとして一気に売上を伸ばしてきたということがあり、すっかりネット通販が広まりました。そんな中で、今まできちんと送料を取ってきたネット通販大手の楽天市場が2020年3月18日から価格が3980円以上(税込)の商品購入で送料が無料になるとぶち上げたことで、楽天市場に出品している多くの業者が組合まで作って反対するなど、「送料無料」という事について注目が集まっています。

ネット通販で送料無料を出し始めたのはAmazonではないかと思われますが、現在は一度に注文した商品の合計価格が税込2,000円以上の場合は送料は無料で(お急ぎ便などを利用すると追加で料金がかかるようになっています)、1,999円以下の場合は送料がかかります。1,999円以下の商品も送料無料にしたい場合、月500円を支払ってプライム会員になったら、Amazonが販売する商品については(Amazonが直接絡まないマーケットプレイスは対象外)送料無料が実現します。

他の大手ではヨドバシカメラの頑張りが目立っていて、大型商品や3,000円未満のデジタルプリントの注文には送料がかかるものの、他の多くの商品についてはほとんどが無料とされています。さらにびっくりするのが、東京・横浜・川崎・福岡など大都市限定のサービスですが送料無料に加えて「最短2時間30分以内」「配達時間を分単位でお知らせ」など、従来の物流の常識を破るサービスを行なっています。ここまでくると、もはや実店鋪よりもネット通販で十分だと思う方も増えることでしょう。

しかし、ここまで散々「送料無料」と書いてきましたが、実は送料が無料になるということは決してありません。普通に考えればわかると思うのですが、商品を通販で購入して届けるまでには、以下のような工程を通していると考えられます(あくまで物流のプロではない人間の予想することですので厳密に見ていくと違っている点があったらご容赦下さい)。

(1)販売店舗の作業

「商品ピックアップ(在庫がない場合はメーカー注文を依頼?)」→「梱包」→「発送」

(2)運送会社の作業

「荷物引受」→「配達先毎への仕分け」→「配達地域への輸送」→「配達先の仕分け」→「配送」→「不在の場合の再配達(不在が続く場合は荷物の保管期限まで自動ループ)」→「(配達できない場合)発送元への返送(当然その際も数回の仕分けが行なわれる)」

基本的に商品を裸で送ることはまずないので、販売先が中味を壊さないような梱包を行なうための費用と、運送業者に支払う運賃を支払うことになります。Amazonやヨドバシカメラの場合、自社の責任でこうした費用を出したり、運送会社との料金の折衝を行なっていると思います。特に紹介したヨドバシエクストリーム便については自社の社員が運送を行なっているため、送料に関わる作業がエクストリーム便については全て自社内で完結している部分もあると思うので、ヨドバシ側か出来る範囲で行なうのだと思います。しかし、今回問題になっている楽天の「送料無料」についての問題は、Amazonやヨドバシのように自社の販売する商品について「全て自社がその責任で送料を負担する」のとは違い、楽天市場に登録して楽天の名前を借りて営業している多くの業者に、加盟料とは別に強制的に注文された商品の送料を負担しなければならないような仕組みに新たにすると一方的に発表されたところに問題があるのです。

楽天を通して荷物を発送する場合、加盟料などとは別に送料もお店単位で負担しなければならなくなると、お店の経営に直接影響することになります。そのお店が店舗での販売および、楽天を通さないで直接通販を行なっている場合、お店としては直接取り引きをして通販で販売するような事になると、楽天の送料無料の条件をクリアした商品を購入する場合、直接取引をするよりも楽天を通した方が安く買えるという事になってしまいます。実際は楽天を通して買ってもらうより、直接お店に来てもらったり直に注文をいただいた方がお店としては経費がかからなくて有難いと思いますが、こうした矛盾が出てしまうと、消費者もあえて楽天を経由して買い物をするようになり、結果商品の価格に転嫁するような事も起こってくるのではないでしょうか。

例えば商品価格5,000円、送料720円の商品の場合、今までの楽天市場では送料は購入者側の負担でしたが、今後は送料が店舗側の負担にしないと楽天市場で販売することができなくなってしまいます。その場合、定価5,000円から5,800円に上げることができれば、送料無料(実際は値上がりしたので購入者側の負担になる?)を維持したまま楽天市場との取引も続けられるようになりますが、そうなると店舗や自前のネットショップでの同じ商品の価格を楽天価格と同じくらいにして「送料無料」にするようになるのでしょうか。ただ、多少利益が落ちても従来の価格のまま送料を無料で行く業者が出てきた場合、価格を上げたショップの売上に影響も出るかも知れません。

忘れないで考えて欲しいのは、送料として示されている金額の中で運送業者は倉庫やトラックなどの設備投資をし、交通費およびガソリン代を負担し、さらに荷物が通る所に人員が配置される人件費がかかるということです。運送会社の方も商売なので、ガソリン代や人件費が出ないほど発送料金を買い叩かれることを良しとしないでしょうし、運賃の交渉が決裂すれば、ネット通販側が今回の楽天のように出品者に送料負担を強いたり、採算を度外視した自社流通網を作るなどして他の運送業の業績を圧迫するような流れになることも考えられます。

今回の楽天の送料無料の対応については、このまま楽天側が送料のお店側負担を強行して実施した場合、今年あったコンビニのセブン-イレブンに対するような反応が出てくる可能性もあります。個人的には利用者側が送料を負担することについての拒絶反応はそれほどありません。現在、Amazonでは送料無料を維持するために再配達をしないで家の前に置いたり袋をドアノブに掛けて置いた時点で配達を完了する事の実験が行なわれていますが、「自宅までの手渡しなら有料」「ドアノブに掛ける置き配なら無料」「コンビニや営業所・専用ロッカーへ受取りに行くならなら無料」というような配達方法による料金の違いか出てきた場合は、状況に応じて選ぶことになるでしょう。

重い米や水をマンションの階段しかない高層階まで運ぶような場合はその分のお金は出しても手渡しを選ぶかも知れませんし、自分で持って運べるものなら、近くのコンビニや運送業者の営業所に取りに行くことが苦ではなければ送料節約のためにこちらから出向くというのも受け入れられるのではないでしょうか。来年はこうした話が色々出てくると思いますので、通販サイトの選択という事も含めて「送料負担の仕組み」に注目してみるのもいいのではないでしょうか。


カテゴリー: 通信サービス全般ニュース | 投稿日: | 投稿者:

てら について

主に普通の車(現在はホンダフィット)で、車中泊をしながら気ままな旅をするのが好きで、車中泊のブログを開設しました。車で出掛ける中で、モバイルのインターネット通信や防災用としても使える様々なグッズがたまってきたので、そうしたノウハウを公開しながら、自分への備忘録がわりにブログを書いています。

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