日本の卓球は中国に勝てるのか?

リオデジャネイロオリンピックが終了しました。各々の競技に多くのメダリストが出て、それぞれ応援する人は違っていたかも知れませんが、個人的には強化してくれるスタッフもいないまま自らの意志で世界に向けて戦えるだけの環境のあるスロバキアに武者修行に出て、日本では初の銅メダルに輝いたカヌーのスラローム男子カナディアンシングルでの羽根田卓也選手のがんばりにはただただ頭が下がりました。また、卓球競技をかなり前から長く見てきたので、今回の特に男子の卓球チームの活躍には驚いた一人です。

それにしても、やはりというか男子も女子も何と中国チームが強いことかと感じた方は多いと思います。なぜ中国は強いのかという要因の一つには、中国の国技が卓球だからということがあります。国技なので国民の全てが小さい頃から競技として行ない、その中からふるいにかけて代表選手を育成するシステムが社会主義国家ということで、かなり早い段階から作られていて今もそのシステムが機能しているということが言えると思います。

ただ、それだけなら国家ぐるみで強化している他の競技でも中国は躍進するはずですが、卓球については本当に別格のように思えます。実は中国と卓球というのは、その国家の成り立ちによって、巧みに政治的に利用されることを意図して強化されてきたという側面もあるので、決して負けることが許されない特別な競技になったということもあるのです。このブログとは全く関係ないテーマですが(^^;)、これからちょっと歴史をひもときつつ、なぜ中国が卓球というスポーツを強化したのかということをごく簡単に紹介させていただきたいと思います。

話は第二次世界大戦後まで遡りますが、日本が無条件降伏をした後の中国大陸では、国民党と共産党が覇権をめぐって争っていました。国際平和の維持を目的として1945年に設立された国際連合という組織がありますが、原加盟国として国連に加盟したのは二つの勢力のうち、国民党の中華民国で、多くの国が国民党政権を中国として承認するということになりました。ちなみに、中国本土を統治した共産党のグループが中華人民共和国の建国を宣言したのが1949年であるため、すでに国連に加盟している国民党と比べると国際的な発言権というのはまだ弱く、当時の中国はどこかという日本での認識においても、台湾に本拠を置いた中華民国という名前が主だったという時代があったのです。

このように、2つの違った思想を持つグループが一つの地域を代表したいと思う場合、説明したように国際的には別のグループに先んじられ、すでに相手の発言権が強いということになってしまったからには、国交を結ぶ場合にも、先に別グループと国交を結んでいる国があった場合、どのようにして自分の国との親交を結んでもらい、そこから国交を結んでもらえるようにもって行くか苦労することになります。そこで考えられたのが、多くの国々が参加するスポーツの世界を足がかりにして他国との関係を築くという方法でした。そのスポーツで存在感を示せれば、自分達のグループを認識してもらうことができるというわけです。ただ、その方法を取るにも大きな問題があったのです。

スポーツの国際交流の場として大いに注目を集めるのは昔も今もオリンピックであることは間違いありませんが、当時の中華人民共和国は中華民国との関係からオリンピックに出ることはできませんでした。つまり、世界選手権がある競技であっても、それ以上の権威のあるオリンピックに採用されている競技の場合、どれだけ強化しても「真の世界一」を決める場に出られないということになります。

そこで、当時の中国当局はオリンピックには当時採用されていないながらも多くの国がその競技団体に加盟している世界的に普及しているスポーツで、自国が強化すれば世界のトップに立てる見込みがある競技をピックアップしていたと予想されます。その際に参考とされたのが、アジア人の体格でも世界と勝負になる競技ということで、当時の日本が多くの世界チャンピオンを生むなど世界の中で成果を上げていた卓球という競技の情報だったに違いありません。

つまり、中国において卓球が国技となったのは、以上のような政治的な面を含む要因が全て満たされた競技であり、まさに挙国一致で強化した種目だからだと言えるかも知れません。当時の日本はまだ中華人民共和国との国交はありませんでしたが、日本の指導者を迎えたり、独自に研究するなどして中国の卓球も次第に力を付けていきました。その途中で文化大革命が起こり、一時は国際舞台から姿を消しましたが、再度世界の舞台に登場してからはその活躍はめざましく、世界に確固たる地位を築きました。

そんな中で行なわれたのがいわゆる「ピンポン外交」というもので、名古屋での世界選手権の時に日本の仲立ちを受けながらアメリカの代表選手との交流を行なうきっかけを作り、そこからついにアメリカとの国交にこぎつけました。そのような事実の積み重ねにより、中国と言えば中華人民共和国のことだというように卓球という一スポーツでの世界交流をきっかけにして国際舞台に躍り出たという歴史があるのです。中国に暮らす人たちにとって、卓球というスポーツがいかに重要かということがおわかりいただけるかと思います。

中国の人口は13億人と言われていますが、その中から代表選手3人を選ぶということで、いかに熾烈な選考が行なわれるかはおわかりでしょう。中国と言えば賄賂で無能な人が上に立つなんてことも報道されることがありますが、卓球の育成システムの中に賄賂が介在することがもしあったとしたら、それは即代表選手の質の低下につながり、国際試合の結果として現われてきます。よって、卓球の代表選考についてはきわめて合理的に、不正の入る余地が無いということが言えると思います。

さらに、中国の選手層というのは今回のオリンピックを見てもおわかりの通り、代表に漏れて海外の国籍を取ってオリンピックに出た選手が活躍しているように、恐ろしく層が厚いことでも知られています。そんな国ですから、万が一にも覇権を譲らないようなきわめてえげつない代表選手の強化策も取られています。

例えば今回、日本の水谷隼選手が団体戦で中国選手から勝利し、個人戦でも金メダリストから2ゲームを奪うなど善戦しましたが、そこでの水谷選手の戦術や動きは即座に分析され、水谷選手の現在の強さを持ったコピー選手の育成が今後更に行なわれるようになるでしょう。それだけの人材は中国にはそろっており、世界選手権に出られない選手の中にも水谷選手に匹敵するだけの身体能力とセンスを持った選手がいるなら、サーブから打ち方まで全てを水谷選手のようにプレーできるようにしたところで、代表選手の練習パートナーとして中国が他国に負けないための駒として使われます。

もっとも、こうして作ったコピー選手が代表選手として期待された選手より強くなってしまい、コピー選手自身が代表選手になってしまうケースもあります。そうなると水谷選手以上のプレーをする水谷選手が中国チームに存在することになってしまうわけです。さらにサーブをバックハンドで直接強い回転を掛けて打ち返す「チキータレシーブ」のようなヨーロッパで開発された技術についても独自の改良を加えてすぐに自分の使える技術にしてしまうなど、全てにおいて一番を目指すのが中国の卓球です。中国選手に勝つことがいかに難しいかということがおわかりになるかと思います。しかし、希望もあります。

紹介したコピー選手というのは対処療法でしかないわけで、常に新しい技術や戦術を求めて変化することを繰り返していけば、そのうち対処できないで潰れることも考えられます。ただ、中国の育成システムを考えるとその中から選ばれた代表に勝つのは至難の技かも知れませんが、定期的に中国選手に勝つための強化を日本チームも行ない、まずは当たるとどうせ負けるだろうと思う意識を変えていくことが大事だろうと思います。ただ、そうした意識改革ができる素地を作った意味で、今回の日本男子チームは大変素晴らしかったと思います。リオが終わったばかりで何ですが、次回の東京大会に期待しましょう。


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