日本通信がフルMVNOとしてサービスの開始を予定している中、移行のための巨額の費用を抑えるため、ドイツに拠点を構えるng-voice社との提携を発表したというニュースが入ってきました。ng-voice社はソフトウェアベースのIMS(IP Multimedia Subsystem)を開発する会社で、これにより専用のハードやシステムを揃えるのと比べ、今までより8割ほどコストカットができる見込みだということです。
ここまで書いても何が何やら全くわからない方が多いだろうと思います。私にとっても同じ思いですが、こうした流れを理解するには、まずは日本通信が目指している「フルMVNO」とは何なのか? ということを見ていくべきでしょう。これから書くことは、色々と自分で調べた上で書いていますので、思い込みで間違った内容を書いてしまっているかも知れません。その場合はどうかご容赦いただきたいということと同時に、誤っている内容についてご教授いただければ、以下の内容についても書き改めます。
今までの「MVNO」と呼ばれる業者は回線および携帯電話番号の紐付けや音声通話の管理などは借り主の大手キャリアの方式をそのまま利用し、SIMカードも独自に発行することはできません。ドコモと直接契約していなくても、ドコモ回線のMVNO契約を解約する際にはSIMカードの返却が必要になるのは、ドコモと同じ処理をする必要があるからではないかと思います。また、通話料金についても大手キャリアと横並びにならざるを得ません(特定番号を電話番号の前に付けて通話するプレフィックス発信の通話料を除く)。
日本通信はフルMVNOになる前からドコモとの交渉の結果、通話料はプレフィックス通話でなくても通話料を半額にしてサービスを提供していますが、さらにドコモとの契約から自由になり、フルMVNOとしてサービスを行なうことになると、新たな独自サービスの展開をしたり、今よりもさらに安く通話料を提供することもできるようになるかも知れません。ただ、そうした利点の半面、今まで大手キャリアがコストを掛けて行なってきた事を自らの手で行なわなければならなくなるため、なかなかフルMVNOとしてサービスを行なうようなところは出てこなかったということも言えると思います。
具体的には、自社(この場合日本通信の契約者)同士の通話以外にも、ドコモ・au・ソフトバンクの携帯キャリアに通話・SMSの接続をする他、固定電話のNTT東日本・西日本・新電電の回線との相互接続の管理をする必要があります。さらに、全国どこへ行っても3ケタ番号の緊急通報をした場合、近くの警察署・消防署・海上保安庁に繋がるようなシステムを作らなければなりません。その他には、衛星携帯電話との接続、インターネット専用線との接続などについても滞りなく接続できないといけません。
冒頭に紹介したng-voice社によるソフトウェアベースのIMSというのは、特別な施設を使わなくても、クラウド上にシステムを構築するだけでも通信に関する管理をしてくれる(スムーズに接続をしてくれる)仕組みだと私は理解したのですが、そうなると、専門の機材がなくても、一般的なハードにシステムを置くだけでも使えることになり、確かにそれにかかるコストは大手キャリアと比べると格安で済むことになるのですね。
こうした最新の技術にはAIが使われており、さらなる付加価値を音声通話上において実現できる可能性もあるということです。日本通信の社長へのインタビューを見ましたが、例えばどこからか電話がかかってきた場合、電話番号だけでそれが迷惑電話なのかを判断するのは難しいものです。スマホのアプリでも迷惑電話判定の機能を持つものはありますが、それも過去にその番号を使ってかかってきた人が報告をすることによって、その番号が迷惑電話である可能性が高いと判定するまでのことです。常に新しい電話番号からかかってくる場合には、なかなか自動判定はできないでしょう。そこで、どこからか電話がかかってきた場合、IMSを使ってAIがその内容を瞬時にモニターして迷惑電話と判定するような仕組みができるのではないかと言われています。
ただ、そうなると基本的に掛けた相手とかかってきた自分しかその内容をモニターできないはずの通信の内容が事業者に把握されてしまうのではないか? というような心配も起きます。同じように、特別なアプリを導入しなくても、自分の発した言葉(日本語)を瞬時にモニターし、クラウド上にあるシステムがその内容を機械翻訳して相手の発する言語に翻訳して伝える(その逆も当然できるでしょう)ようなサービスについても、日本においてはまずきちんとした法整備が必要でしょうが、ユーザーがそうしたサービスを使いたいという事になってくれば、ガラケータイプの電話でも日本通信の回線を契約していれば、自動翻訳の電話がAIを使って実現できる未来が来るかも知れません。
この自動翻訳電話が実現できれば、目の前にいる相手がスマホを持っていれば直接ではなく電話を通じて意思疎通をするような事もできるわけです。直感的に利用できる分、ガラケーしか持たない高齢者でも海外の人とのコミュニケーションが取れるような未来が来るなら、今のように「外国人お断り」というような張り紙をお店に出すようなこともなくなるのではないでしょうか。
ただ、そうなると今まではドコモのシステムがダウンしない限り、MVNO回線であっても同じように使えていたわけですが、今後はすでにフルMVNOとして先行しているIIJmioや日本通信でシステムだけがダウンした場合、たとえドコモのシステムが問題なく使えていても、フルMVNOのサービスで契約している人だけが利用できなくなってしまう可能性はあります。個人的にはそうした事も考えて複数の事業者を併用する必要もあるかも知れませんが、ソフト的なシステム構成の方がトラブルが起きても直しやすいという話もありますので、これについては実際にサービスが開始してみないとわからない部分はあります。
私が今使っているRakuten Linkを使った電話番号を使っての通話・SMSが無料になっているのも、こうした新しい技術の賜物だと思いますし、今後日本通信がどんなサービスを行なうかによって、今使っている通話用の回線を楽天から日本通信に変えていく可能性も十分にあります。通信全般では以前にも紹介しましたスマホと通信衛星との直接通信というものも興味深いですが、AIを導入することで今までの音声通話のサービスがどのように変わっていくかという観点で見ていくことも面白いですね。どちらにしても今回書いたような事を実現させるためには、第三者(この場合AI)が相互通信を監視するような事をしなくてはならないので、その点をどう解決していくかということとともに、今後の動きに注目していきたいと思っています。