日本サッカーが世界レベルに追いつける日は来るか

東京オリンピックでメダルを狙うとされた23才以下のサッカーチームは自力でアジア選手権の予選を突破できないという、連続してオリンピック・ワールドカップに出場するのが当り前という風に見ていた「にわか」ファンからすると、随分不甲斐ない戦いに思えたかも知れません。

しかしこれは、必ずしも強豪国ばかりでないアジアでの予選を戦う難しさという事もあるのです。南米やヨーロッパのような強いチームと戦う時にはなかなか攻め込むことができないのでガチガチに守備を固めてカウンター一発で得点を狙うような形での戦い方になるのに対し、アジアの中の日本は常に世界大会に出場する強豪という立場になるので、相手の方がほとんどゴール前を固める中でいかに点を取るかということも考えた試合についても考えなければならなくなります。今回のアジア予選で敗れたサウジアラビアとシリアは、過去にも好勝負を繰り広げてきましたが、今回は特に1対1の状況で競り負けるようなパターンが多く、あまりにもあっけなく負けたということもあり、今後の日本サッカーは大丈夫なのか? という風に思う人がいても不思議ではないでしょう。

それまでの日本は、海外の個人技に頼るサッカーではなく組織力でボールを奪いそこから速攻・セットプレイで決めるという「日本選手は海外選手と個の力を比べると弱い」という前提での戦術を取ることが多かったように思います。しかし、今からおよそ40年以上前から、個の力を重視しての人材育成を続けてきたチームが存在したのです。それが、先日の高校選手権で優勝した静岡学園でした。

静岡学園のホームページにある、サッカー部の活動目標と活動内容についての記載がありますので、その部分をあえて引用させていただきたいと思いますが、もちろんこれは先日の選手権優勝のはるか前に井田勝通総監督が静岡学園の監督に就任した40年以上前からの理念で、今も変わっていません。

(ここから引用)

静岡学園サッカー部は、南米のサッカースタイルをベースに世界で活躍できる選手育成を目指しています。特に、個人の部分にはこだわっており、技術とプレー中の判断力のレベルアップを意識して日々の練習に励んでいます。更に、チームとしても「観ている人を魅了させるようなサッカースタイルで日本一を目指す」という高い目標を持ちながら、部員全員で努力しています。

(引用ここまで)

この引用の中に、一応「日本一」という文字はあるものの、高校で日本一を獲るよりも、見ている人を魅了するサッカーを目指す中で、その後に世界で活躍できるための人材育成という感じの方が強いと思います。マスコミでは静岡県の事を「サッカー王国」というような呼び方をしますが、これはあくまでインターハイや選手権の優勝を第一の目標にして努力してきた藤枝・清水・浜松あたりのサッカーが他の県より先んじていたため一時期全国大会で常にベスト4以上という結果になっただけで、その当時から静岡学園のサッカーはそうした「王道」とは無縁のものだったように思います。

静岡県のサッカーは地域の競争意識が強く、それが全国大会での勝負強さというものにつながっていたのだろうと思いますが、当時から静岡学園は全国大会に出られなくても卒業後に一流のプレーヤーになるための練習をする中で、たまたま県代表になり、そのプレーがあまりにも今までのサッカースタイルと違うため初出場した冬の高校選手権で注目されることになったのでしょう。

時は流れサッカーのプロリーグであるJリーグが開幕すると、全国のプロチームが育成のためのユースチームを持つようになり、それまでのサッカー先進地域であった静岡県の優位性は失なわれてしまいます。昨年こそ高校生年代のプレミアリーグで今回静岡学園と決勝で対決した青森山田高校が優勝しましたが、全国にあまたあるJリーグが持っているクラブチームの方が優秀な人材が集まり、そこで勝ち抜いた選手がプロへの道へと進んでいっています。

今回惜しくも準優勝となった青森山田高校は、静岡学園と違う方向性でJリーグの育成とは違う形を提示し、世界を目指すチームを作っていましたが、その戦い方は「不敗」の考えで守備からの速攻・セットプレイを磨き、結果を出してきたように思います。今回の選手権ではもしかしたらトーナメントを勝ち抜くごとに連覇へのプレッシャーを感じていたのではないでしょうか。

現状の世界における日本チームの力を考えると、青森山田高校のような考え方で世界の強豪と向かい合った方が勝てる可能性は上がるかも知れません。サッカーの試合ではいくら攻勢をかけて何本シュートを打っても入らなければ意味がないわけですから。全国から集まってきた選手をしっかりと鍛え、プレミアリーグなど日本のサッカーの最高峰で常に試合のできる環境を作った青森山田高校の指導者の努力は本当にすごいもので、その活躍は今後も続くでしょう。しかし今回の選手権決勝ではその考えと真っ向からぶつかる「見て楽しいサッカーを追求し世界で戦える人材を作る」という、およそ「不敗」の考えとはそぐわない静岡学園が勝ってしまったというのは、セットプレイに頼らずに個の力でも他国を出し抜けるのではないかと思える、日本選手の個人技も相当なレベルにまで上がってきたという風に考えることもできるでしょう。

恐らく静岡学園総監督の井田勝通氏はそこまで考えて静岡学園のサッカーを作ってきたのだろうと思うのですが、監督業を引き継いだ川口修氏によって今回の優勝がもたらされたということで、今までの高校サッカー界とも、Jリーグ傘下のユースチームとも違う完成された育成システムがあるということが広く知られたことは嬉しい事です。今までは中学校まで各地のクラブチームで活躍した後で静岡学園に入るというパターンが多かっただろうと思いますが、個人技をさらに磨くなら中学生から静岡学園でというような選手も出てくるのではないかという気もします。

少し前にはアジアの中でも勝てなくなった日本の卓球が金メダルを東京オリンピックで狙えるようになったのは、小学生レベルからの徹底的な個人練習によって動体視力が鍛えられたおかげであると言われています。もちろん、一つの育成システムが全て良いということはありませんが、今後はもっと早く個人練習をした方が良かったというような人材が適材適所に収まることになって、他の高校やクラブチームと切磋琢磨することによって、さらに日本のサッカーのレベルが上がるのではないかという期待が出てきたことも確かです。静岡学園の川口監督の夢は、教え子がヨーロッパチャンピオンズリーグにスタメンで出場できるような選手が育つことだそうですが、そうなれば私達はもっと日本代表の試合を楽しんで見ることができるようになるに違いありません。


カテゴリー: ノンジャンルコラム | 投稿日: | 投稿者:

てら について

主に普通の車(現在はホンダフィット)で、車中泊をしながら気ままな旅をするのが好きで、車中泊のブログを開設しました。車で出掛ける中で、モバイルのインターネット通信や防災用としても使える様々なグッズがたまってきたので、そうしたノウハウを公開しながら、自分への備忘録がわりにブログを書いています。

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