見出しが読む人に与える影響について

 私がこの文章を書いているのは2014年9月14日ですが、テレビでも新聞でも朝日新聞の不祥事についてのニュースがトップでした。当時はスクープとされた福島原発における「吉田調書」の問題と、従軍慰安婦に関する問題で誤報を出し、しばらく謝罪の言葉がなかったということで大騒ぎになっています。果たして、この問題はあくまで関係者のみの問題なのか、会社自体の体質の問題なのかというところで議論があるようですが、まさにそうした騒ぎのある中、9月12日に出た朝日新聞デジタル、河合達郎記者の署名記事(2014年9月12日06時52分)について今回は取り上げてみたいと思います。

 問題の記事の見出しは「150キロもトイレなし… 東九州道、PAの完成遅れ」とあります。今後こうしたウェブ上の記事は消されて後から検索できなくなってしまうことが予想されるので、記事を要約しながら紹介します。

 福岡の北九州から大分・宮崎を通り、鹿児島まで至る東九州自動車道で、大分から宮崎の間にある未開通区間、佐伯ICから蒲江ICが2014年度中に開通の運びになったのですが、当初2016年度から供用開始される予定の弥生PAの建設が遅れ、2021年度にずれ込んだという事実を報じています。このため、表題の150キロトイレなしの期間が7年間続くという記事の主張に繋がっていくのですが、「トイレがない区間が150キロも続く」ということがことさらに強調されてているのが私には気になりました。場所的にはなかなか行ける所ではありませんが、もし今後車中泊の旅で現地を訪れることになったらと思うと、事の真偽をはっきりさせておかないとと思って自分なりに検証してみました。

 前の文章を見ればおわかりかと思いますが、このニュースソースの元である弥生PAは、予定通りに工事が進んでもおよそ2年間は完成せず、パーキングアリアなしの期間がそれだけ続くわけで、「150キロもトイレなし」の状態に陥ってしまうのは以前からわかっていたことだろうと思われます。署名記事を書かれた記者の方がこのことを問題にするなら、当初の計画で高速道路の開通時期とパーキングエリア供用開始の時期がなぜ2年間もずれていたのか、きちんと調べる必要があったと思いますし、わざわざこの時期になってこのような見出しを付けて出すこと自体に何らかの裏があるのではないかとも思えます。ただ、この記事には続きがあって、今回の記事の最後にはこのような文章があります。

(以下部分引用)
東九州道には無料区間があるため、県はそこでいったん高速を降りるなどの対応を呼びかけている。
(引用ここまで)

 私たちは高速道路というと、全区間有料で簡単には降りられない道を想像します。この高速の場合トイレのない150キロの間に無料区間があるという事実がわかれば、ドライバーはいざという時には無料区間まで行くことを考えればいいので、最悪の状況でも150キロノンストップで走らなくても大丈夫であることはわかります。そうは言ってもいちいち高速道路を途中で降りてトイレのある場所を探すなんて現実的ではなく、やはり150キロの間PAのトイレがないのは困ると思う方もいるかもしれません。しかしがら、この件についてはもう一つの驚きの事実がありました。沿線上にある宮崎県延岡市の北川ICに隣接する「道の駅北川はゆま」は、高速道路開通に合わせてインターチェンジと接続されたので、実質的には東九州道のサービスエリアのように使われているという事実があります(高速道路上の北川ICの看板には道の駅の案内が並列掲示されています)。ちなみに、道の駅はゆまのホームページには「北川ICから0分」という記載があります。そうなると、実質的には150キロトイレなしという表題の前提が崩れてしまうのではないでしょうか。

 確かに、当初の予定から5年も遅れることになった弥生PAの工事に関するごたごたは批判を受ける面もあるのかも知れませんが、そうした批判をあたかも一般ドライバーの不利益を強調する形に転化して報道するようなやり方がまかり通っているとなると、朝日新聞の一連の不祥事についても、社内の構造的なものに起因するところがあるかどうか検証されなければならないと個人的には思えてきます。もっと言うと、まず最初にこのニュースの見出しが決まっていて、その見出しに沿って記事が書かれたのではないかという疑問も沸くので、その点も調査して欲しいですね。ともあれ、一通り調べてみて、事実関係からするとおかしいのではないかと思われる見出しで煽って注目させるというやり方を、天下の大新聞が普通に使っているのかと、正直びっくりしました。こうした手法は、内容はともかく見出しにショッキングな言葉を並べて注目を集め、自分のサイトへのアクセスを伸ばしたいような人がやることだと思っていたのですが、そうしたレベルまで下がってきたのが大新聞の記者と言われないためにも、しっかり一連の不祥事を検証していただきたいと思いますね。


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