保温のできるマグボトルというくくりでこの製品を評価すると肝心な事を見誤ります。マグボトルの製品評価に保温性の良さを第一に挙げることは間違いではなく、その点からすると高品質の製品には劣るものの、そうではない性質の製品であると言えます。
この製品の最大の特徴は、ステンレス製の細長い「茶こし」が中ふたに付いており、葉から煎れる録茶や紅茶をこのボトル単体で作ることができるということです。ペットボトルで飲む録茶や紅茶は確かに手軽に飲めて保存もききますが、何より葉から煎れるお茶というのは美味しいだけでなく安いというのが大きなポイントです。というのも、葉から煎れるお茶は一煎目で終わりということではなく、渋くて飲めなくなるまで、だいたい三煎目くらいまではおいしく飲めるため、この容量300mlで3回分くらいは楽しめます。茶こしはプラスチックの枠に嵌めこまれていて、スライドさせれば簡単に外すことができます。茶ガラも叩くようにして出せば簡単に処理できるので、旅先でも新しい茶葉を入れ換えて飲めもしますし、あえて茶葉を替えないで飲むという選択もあります。アウトドアで使う急須としては抜群の使いやすさだと思います。
このように、一回の茶葉で何回もお茶を飲むというスタイルは、実は単に安く飲み物が飲めるということだけではない効果があるということが最近になってわかりました。緑茶は紅茶やコーヒーのようにカフェインを含む飲み物ですが、コーヒーフィルターから出した出がらしを再び使うことも、紅茶のティーバッグも朝飲んだものを夜まで取っておいてまた飲むなんてことはなかなかやりません(^^;)。さらに缶コーヒーやペットボトルの飲料なども常に新しいものですから、簡単に買えるお茶・紅茶・コーヒーを一回飲むごとに同じ量だけカフェインを取り続けることになってしまうのです。
その点、急須の中に茶葉を残しておいて何回も飲んでいくことによって、カフェインをそれ以上とらなくて済むわけで、車を運転していてそろそろ寝たいような場合はあえて茶葉を換えずに出がらしのお茶を飲んでカフェインを取らないようにして、仮眠を取るようなこともできます。最近ではカフェインの取り過ぎも体に悪いという話もあります。安易にカフェインの入った飲み物を飲み過ぎる傾向のある方は、このボトルを使い茶葉を入れ換えないで何度もお茶を飲むようにしてはいかがでしょうか。
なお、この製品の箱に書いてある説明では茶こしの中に茶葉を入れて、そこにお湯を注いだ状態で出掛け、外でそのまま茶葉から煎れたお茶を楽しむような事が書いてありましたが、その方法は個人的にはおすすめしません。というのも、急須に入れたお茶はすぐに飲むから美味しいのであって、何時間もそのままにしておくと酸化が進むことで色も変わり、味も悪くなってしまいます。そこで、あえて茶葉を入れて行く場合には、お茶を抽出するのに時間がかかる「水出し」にして、味が変わらないうちに飲むか、お湯だけを入れて持ち出し、飲む前に茶葉を茶こしに入れて淹れたてを飲むのがベストでしょう。夏は広口のボトルに細かく砕いた氷を入れて、冷茶をこれで作るというのもおすすめになるでしょう。
そういう意味では、このボトルはマグボトルというよりも小型でいつでも煎れたてのお茶を楽しめる急須だと思って使った方が幸せになれる気がします。ちなみに、製造元は中国で保温性能も大手メーカーのものと比べると劣ることが予想されますが(^^;)、これを保温ボトルとして評価するのではなく、急須として評価するなら、録茶をおしいく飲むためにはあえてこのボトルに茶葉を入れない状態でお湯を詰めて持って行く方がいいと思います。
例えば、夜に出発して次の日の朝食用にお茶を煎れたいと思った時、大手メーカーの保温性能が高いボトルにお湯を入れた場合、その程度の時間経過では中のお湯の温度は高いままで、そのまま茶葉を茶こしに入れても一瞬で香りが飛んでしまいます。煎茶を急須で煎れる場合、お湯の温度は60℃くらいまで冷まして煎れることが推奨されます。このボトルの場合、カタログ値では保温効力が6時間で50℃以上となっていますが、外気温が下がればこの数値にも変化が出ます。真冬ならお茶用にする場合は熱湯を入れて4時間くらいがせいぜいではないでしょうか。ただ、別に性能の高い真空断熱のマグボトルを用意することで、時間の経過とともに適温でのお茶を飲み続けることも可能です。
もちろん、ボトルとしてドリンク類だけでなく口が広いことと内部がセラミックコートされていることからスープ類を入れてもいいのですが、その場合には茶こしの部分を外しておかなければならないので、個人的にはミニ急須としての利用が私には合っているように思います。車の中に1つ常備しつつ、普段の生活の中で淹れたてのお茶が飲みたい時には茶葉を別に持ち出しておいしいお茶をいただいたり、旅行中においしい茶葉の販売に遭遇した場合、すぐに飲むのに重宝しそうです。
個人的にはもう少し中ぶたと茶こしをつなぐギミックが頑丈なら言うことなかったのですが、いかんせんこの商品はお店で見付けた時にはかなりディスカウントされていたので、このまま有難く使うことにします。できたら、こうした製品が日本の大手メーカーから出てくれたら外でも茶葉で煎れるお茶というものが広く楽しまれるようになると思うのですが、ボトルメーカーさんだけでなく、茶葉の生産をする方々にもこのようなマグボトル型の急須というものを真面目に作っていただきたいなと思います。