「超能力ショー」の舞台裏とSMSによる架空請求詐欺の類似性

以前、まだ地上波のテレビの規制がゆるかった頃、日本テレビに「木曜スペシャル」という番組がありまして、まるで縁日の見せ物小屋のようなアクの強い人を集めて今改めて考えると実にバカバカしいとも思える企画で人気を博しました。番組自体を知らない人にとっても、矢追純一ディレクターのUFO特番がこの番組だったということからも、その中味はうかがい知れるのではないでしょうか。

当時その矢追純一ディレクターが面白そうなネタとしてピックアップしたユリ・ゲラーという人物を1974年にまず「11PM」に出演させたことで、日本中に時ならぬ超能力ブームが起こります。それまでのマジックショーでは決して行なわれることがなかったスプーンを超能力で曲げるという実演に、真似をする子供が続出したということもありましたが、当時日本中のテレビを見ていた人をびっくりさせたのが、ユリ・ゲラーがカナダから日本全国に向けて念力を送り、腕時計を動かすという企画でした。

この企画が画期的だったのは、単にスタジオの中だけで行なうのではなく、テレビを見ている全国の視聴者に呼び掛けることで視聴者に番組を見ながら壊れた腕時計などを用意してもらい、それらがユリ・ゲラーの念力によって再び動き出したら電話を掛けて下さいと呼び掛けたことでした。普通に考えればカナダから日本への念力で時計が動くはずがないと思えますが、その結果はすぐに電話で日本テレビに寄せられ、多くの家庭で用意した時計が動き出したという報告がされたのです。スタジオの電話は鳴りっぱなしになる様子も放送され、ヤラセをやるにしてもさすがに番組に連絡してくる全ての家庭と打ち合わせをしておくことは無理な話ですし、日本全国のごく普通の家の中で時計が動き出すという事が、その夜の日本全国で続出したという事実が残りました。

テレビを見ている側の視聴者としては、実際に腕時計などを用意できなかった家庭でも、スタジオにたくさん用意された壊れた腕時計が再び動き出す様子を見るだけでなく、全国から届く自宅の壊れた腕時計が動き出したという電話による報告に、まさに嘘偽りのない超能力を間近で見ているという風に思い、超能力は実在すると思った人が続出したことでしょう。特に本当に用意した時計が動いてしまった家では、何やら恐ろしい気分になり、精神的な影響を大人だけでなく小さな子供にまで与えた可能性もあります。

その夜、テレビの中だけでなくテレビの前で現実に起こってしまった不思議な現象というのは、本当に超能力だったのでしょうか。この番組が放送された当初からそうした批判は存在し、様々な話を総合して考えてみると、実は種も仕掛けもない現象ではあったものの、人々の心象に入り込む計算されたテレビ向けのパフォーマンスだったという可能性も十分に考えられます。

まず、日本テレビに電話を掛け、スタジオの電話が鳴りっぱなしになった事について、実は時計が動いたという電話以上に、何も起こらなかったという抗議の電話も相当あったのだそうです。番組では当然都合の悪い意見を流す時間などなく、抗議の電話もその場限りになり、「テレビの前で動いた時計がある」という事実だけが大きく報道されることになりました。

ではなぜ動く時計と動かない時計があったのかということですが、当時の木曜スペシャルの視聴率から考えた時、約数千万人の人間がこの放送を見ていたと仮定すると、その中の十分の1の人がテレビの前に壊れた時計を用意したとしても数百万個の時計がテレビの前にあったと見るべきでしょう。1974年という年は、まだ腕時計は電池式のものは少なく、使い古しの壊れた時計というと機械式の時計がほとんどでした。

そうしたものの中には壊れたと思っていても実は壊れていないものもあったでしょうし、テレビを見ながらネジを巻いたり自動巻きのものなら揺すっただけで動く可能性のあるものも混じっていたことは十分に予想できることです。さらに時計の故障の原因として、機械を動かすための油がかたまってしまい動かなくなることもあったのだそうです。その時計を、テレビの前で手に汗を握りながら見ていた人がいたりしたら、手の温かさで中の油が溶けて、一時的に時を刻み出すということもあり得ます。何せそうして日本の家庭の中で用意された時計は数百万個以上もあるのですから、その1%が動いただけでも数万個になります。別にその数は問題ではありません、実際に動いた時計の数が数十個であっても、テレビの前に用意した時計が急に動き出したという現象が日本のどこかで確実に起こったという事実こそがテレビ番組を成立されるためには必要な事だったのです。

私自身は超能力を肯定する立場でも否定する立場でもありませんが、ユリ・ゲラーが念力を日本国内に送っていなくても、多くの時計が集まれば集まるほど不思議な現像のような事をその当時には超能力でなくテレビの力でも起こすことができたわけです。ここまでかなりの前置き話になってしまいましたが(^^;)、こうした人間の心象に深く入り込む手法を悪い事に使っているのがこれから紹介する詐欺の手法です。

先日私が使っているmineoのau回線を使ったデータプランのスマホにSMSのダイレクトメールが届きました。内容は以下のようなものです。

”(重要)有料動画サイトの未納料金があります。本日連絡ない場合、法的措置に移ります。至急ご連絡下さい(以下 電話番号と動画サイトの紛らわしい名称が書いてありますがこの部分は略させていただきます)”

これはいわゆる架空請求の詐欺で、このメールの最後に書いてある電話番号をネットで検索すればこれが架空請求の詐欺メールであることはすぐにわかるのですが、中には私のように考えない人もいます。SMSはパソコンや携帯のメールと違い、メールアドレスがわからなくても電話番号がわかれば届きます。となると、電話番号を知られた上でこうしたメールが届いたのかと慌てふためき、その日のうちにメールに記載された番号に電話してしまう人がいても不思議ではありません。

ちなみに、私のところに来たメールは自分自身ですらも電話番号を知らないSMSオプションの付いたSIMカードに付いていた電話番号あてに来ています。ネットショッピングなどで流出することは全くなく、そんな番号にまでSMSメールをピンポイントで送る業者の中にはユリ・ゲラーのような超能力者がいるのでしょうか(^^;)。

実は、このSMSは今回の私のように届く番号にだけ送られたのではなく、膨大な番号に向けて一斉に送られたものの一通である可能性が高いと言えます。何十万通何百万通送ったものの中にSMSが届く音声通話プランの番号やSMSオプションを付けたデータ通信SIMがあれば、そのSIMが入ったガラケーやスマホにはメールが届くことになります。

何百万通分かわかりませんがその中から相手先に届いたもののうち大部分は私のように既に架空請求メールだと気付いて無視されるでしょうが、中にはメールの内容を真剣に受け取り、つい明記されている電話番号に電話してしまう人もいるのでしょう。確率的には1%にも満たない数だろうと思いますが、その数はメールの数を増やせば増やすほど増える可能性があり、一人あたり騙し取れる金額は数万から数十万となれば、もし百人単位で騙せればかなりの稼ぎになります。何の努力もせずに向こうからお金を振り込んでくれるわけですからある意味おいしい商売でしょう。

そういうわけで、このメールの内容を真に受けて電話をしたら最後です。電話口でいかに抗議しても、こちらのパソコンにはお宅の電話番号が登録されているのでメールしたのだから、本人が使わなくても家族の誰かが使った事には間違いないなどと(もちろん、偶然届いてしまった事を巧妙な話術でごまかしているわけです)言われてしまえば、少しでも思い当たる事があった場合に逃げ場はなくなります。さらにこうしたSMSメールを使った詐欺では直接電話番号を使ってメールしているので、電話番号を業者に知られてしまったという負い目がある分、相手の言いなりになりやすくなるかも知れません。

ですから、もし今自分がメインで音声通話に使っているガラケーやスマホあてにSMSメールが来ても、相手が自分の電話番号を知っているとは思わずに無視した方がいいです。どうしても相手に電話をしたい場合にはまずは警察に相談することをおすすめします。間違ってもSMSが送られてきた番号を相手に知らせてはいけません。

スマホに直接送るというのは、一家だんらんの中で超能力実験を見るのとは違い、自分一人の中で抱え込んでしまう分、悪意を持った相手の思うがままに自分の行動をコントロールされてしまう危険性があります。一回電話しただけでカモと見なされて、自分の電話番号がリスト化されて回ってしまう可能性すらあるのです。今回のメールも家族の中でその存在を明らかにするには恥ずかしいという点も巧みに突いています。

今回私のところにきたメールが、たまたまSMSオプションが付いていた通話不可のSIMカードだったことで、ランダムに一斉送信されたことが推理できましたが、そんな事とは夢にも思わず、相手に電話するなどして自分の番号を知られてしまった場合、最終的にはその電話番号を変えなければならなくなるかもわかりません。とにかく、この種のメールや通知については無視をし、相手がこちらの心の中に入る隙を与えないよう心していただきたいと思います。


カテゴリー: コラムモバイル関連コラム | 投稿日: | 投稿者:

てら について

主に普通の車(現在はホンダフィット)で、車中泊をしながら気ままな旅をするのが好きで、車中泊のブログを開設しました。車で出掛ける中で、モバイルのインターネット通信や防災用としても使える様々なグッズがたまってきたので、そうしたノウハウを公開しながら、自分への備忘録がわりにブログを書いています。

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