農水省でのワープロソフト「Word」一本化通知は何を意味するか 電子書類の互換性について考える

今国会で出された法案がかなりの箇所で間違っているという指摘がされる中、なぜこんな事が起きるのかということが検証される中で、実は官庁の中で文書をやり取りするのに複数のワープロソフトが使われていることを問題視する動きがありました。農水省では使用するワープロソフトをMicrosoft社の「Word」に一本化する通知を出したことがニュースになったのですが、この事について私自身思っていることを書いてみたいと思います。

普通日本では、PDFでないワープロ文書のファイルはマイクロソフト社の「Word」によって行なわれることが多いです。私も自分の中だけで使っている場合は必ずしもWordを使わないこともありますが、文章のレイアウトまで共有する場合にはWordを使って文章を作らないと、いわゆる互換Wordソフトでは完全に内容が統一されない不具合が出ることがあって送った相手が困るので、いちいちWordの入っているパソコンでチェックをしたり文章を作ったものを確認してから送るようにしています。

官庁では古くから国産の「一太郎」を使っている人も少なくないのだそうですが、一太郎を使っていること自体が問題ではありません。というのも、今回問題になった「地縁」が「地緑」になってしまうというような、普通に考えると普通にキーボードから入力した場合に起こりようのないミスが出ていることを考えると、「一太郎」で作った文書を「Word」文書への変換作業を行なう際、行なわれたかも知れないとんでもない官庁内での行動を図らずも知ることになってしまいました。

これはあくまで私の想像ですが、一太郎形式のファイルからレイアウト・枠線などテキスト文書以外の情報も合わせて完全にWord形式のファイルに変えるためには結構な手間がかかるため、法案を作る担当の人が手抜きをして、一太郎で作ってプリントアウトした(あるいはPDF化した)文書をOCR(あるいはWord側の機能)を使ってスキャンしてWordで編集できる形式にしたのではないかと考えます。文書をスキャンすると、その全体は図形として認識され、それを改めて文字に変換する仕組みなので、うまくいかないと微妙に似ているが違う文字としてOCRエンジンが誤認識してしまうことがあります。OCRの認識率は今でも100%というわけにはいかないので、そうした文章をチェックするには、打ち間違い以外にも最初からうまく認識していない箇所があると思って出力されたファイルを再確認しなければいけなくなります。

実は昨年、電子化されていない本をスキャンしてもらい、テキスト文書として出力した内容を元の本と照らし合わせる作業を個人的な趣味として行なっていたのですが、句読点が違ったものになっているのは当り前で、「は」が「ほ」になるとか、漢字では「興行」と書くべきところが「典行」になっていたのを当初は見逃してしまうなど、普通に手打ちしていれば考えられないような誤りがところどころにあり、一通り見られるような電子ブックで読めるものにするのに結構な時間がかかった経験があるのです。「地縁」が「地緑」になるというのは正に私の場合と同じで、一度OCRで認識したことによる誤りである可能性は高いでしょう。膨大な量のある法案の中で相当の誤字チェックは内部で行なわれたと思うのですが、通常起こり得る誤りとは違った種類の間違いであるため、そうしたチェックをすり抜けた誤りであるのではと思えます。

私の場合は、オリジナルのテキスト文書がなく、本自体をスキャンするしか電子化する方法がない(あるいは全てを手打ちするかという事になる)ため、全文をくまなく確認してそうした間違いを全ていちいちチェックしなければなりませんが、今回の官庁の場合は必ずしもそうではないでしょう。法案に関する作業に携わる人がワープロソフトを統一し、いちいちスキャンしなくてもWordで作ったファイルを共有するだけで、文章のチェックはOCRで読み取った時と比べると遥かに早く正確に作業できたのではないかと思えます。

一太郎は国産ソフトで、Wordはアメリカ製のソフトなのでナショナリズムの観点から一太郎を使うという人もいるのかも知れませんが、そもそも旧通商産業省や旧文部省が国産OSのBTRONを小中学校の教育用パソコンの標準OSに選定しようとしたことに反対して、国産OSを採用しなかった時点で、もはや国産にこだわらず広く普及しているものを標準にして使う事にしたのではなかったのでしょうか。現在は、そういう意味ではワープロソフトとしてのWordは、役所だけでなく民間も含めてワープロ文書のやり取りに普通に使われています。

そんな現代の日本で、わざわざ一太郎で文書を作り、そこからデータをわざわざスキャンして不完全なテキスト情報の残ったWord文書にして、多くの優秀な官僚の方々が本来はやらなくてもいいデータチェックの仕事に時間を割かれていることがあるのだとしたら、今回の農水省の通知はむしろ当然で、今までなぜ一太郎とワードが仕事上(個人での使用であれば問題ないと思いますが)混在される状況で使われてきたのかということの方が問題だと言えます。ワープロソフトを一本化しないまま作業する中でだれかがOCRエンジンを使った文書変換を行なってしまったら、その後の作業において全ての文字を一からチェックすることが求められるくらいのものだと思うので、誰がこうした現状を今まで放置していたのか、徹底的に調査する必要があると思います。

今後、同じWordで作られた文書のやり取りだけになれば、キーボードで打たれた文字のチェックについてはローマ字入力とかな入力の差はあるものの、基本的には誤変換される同音異義語を重点的に行なえば良く、法律の専門用語はむしろ文書を作る人がきちんと語句登録していると思うので、今まで単なる文字チェックに使っていた仕事はやらなくて済むようになりますし、激務と言われる官僚の方々の労働時間の削減にもつながるでしょう。古いハードやソフトで作ったデータを変換することの問題は今後も出てくるのではないかと思いますが、最終的にはルビや文字の大きさ、段組みなどを除いた素のデータを残しつつ、完成させたワープロ文書との二種類で残していくことで、今回のような不具合も未然に防ぐことはできたのではないかと思いますが。

こうした問題は、かつて年金の問題が起こった時に全省庁できちんとされていたのではないかと思っていたのですが、厚生労働省の人たちの深夜にまでいたる歓送迎会をセッティングしてしまう背景には、こうした古いしきたりをかたくなに守り誰も改善を言い出せない体質が関わっているのではないかとすら思います。今回の事を契機にして後の人たちがまた文書の復元に苦労することのないよう、きちんと文書作成のガイダンスを整備してほしいと思っています。


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てら について

主に普通の車(現在はホンダフィット)で、車中泊をしながら気ままな旅をするのが好きで、車中泊のブログを開設しました。車で出掛ける中で、モバイルのインターネット通信や防災用としても使える様々なグッズがたまってきたので、そうしたノウハウを公開しながら、自分への備忘録がわりにブログを書いています。

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2 thoughts on “農水省でのワープロソフト「Word」一本化通知は何を意味するか 電子書類の互換性について考える

  1. ケータイオタク

    LINE騒動では国産アプリと騒いでいるのにワープロソフトは一太郎と言う評価の高いソフトがあるのにWordと言うアメリカのマイクロソフトと言う声が多いのにもネット民のダブルスタンダートを感じますね。
    ただ一つの組織で複数のワープロソフトが混在するのは問題ですね。この機会に統一はすべきですね。
    ただ国家組織として統一するなら携帯キャリアに圧力をかけたように一般価格も含めて引き下げを求めてもらいたい。引き下げないなら一太郎に切り替えるくらいの姿勢でも良いのでは。
    ただワープロソフトを使わなくてもテキスト形式で統一しても良いのではないかと思います。
    法文そのものは装飾も必要無いので可能だと思います。ただ旧来の法令は縦書きだったので対応出来なかった。横書きに統一する必要はあると思います。
    官僚の方も大変だとは思います。最近の政治を見ていると法令そのものが法令常識に基づく用語の使用では対応出来ない法令の作成を求められているのでは。
    一般の方々は法的な思考には欠けています。良く裁判で判例にとらわれていると批判が出ますが、個別事例では妥当でも一般には普遍性を欠いてしまう事はよくあります。
    法の重要な役割に法の下での平等がありますが、判例を重視すると言うのは法の下での平等で必要だからです。裁判官によって判決に軽重が出ては法の下の平等と言う原則は守れません。
    用語の使用にあたり他の法令との間で齟齬があっては問題です。
    議員にしてもまして一般民衆はその場での最適な条文である事を求めますが、部分的最適は法体系全体では矛盾が生じかねません。
    そんな事も混乱に輪をかけているのではないかと推測します。

  2. てら 投稿作成者

    ケータイオタクさん コメントありがとうございました。

    一太郎というワープロソフトは優秀で、それ自体で完結する用途であれば使う事に問題はないのですが、現在の状況では民間とのやり取りを考えると一太郎ファイルを共有するような事はちょっと考えられないでしょう。

    テキスト文書で装飾の情報を入れる方法として、「青空文庫形式」というやり方を導入するという手はあるのですが、こうした決断はなかなか官僚だけではできないでしょう。政府が新たに主導することが大事だと思いますが、最初は全てを覚えなければならないので、その辺の理解が得られるのかというのはあります。どちらにしても、低所得者にはそれなりに高額な負担でofficeを購入しないとデータ交換も満足にできないような状況は何とかして欲しいと思います。

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