親指シフトのソフト&ハード提供を富士通が終了するにあたり

富士通株式会社は、「親指シフトキーボード」として同社が販売しているキーボード製品および、日本語ワープロソフト「OASYS V10.0」、日本語入力ソフト「Japanist 10」の販売を2021年中に終了し、2024年または2026年にそれらのサポートを終了すると発表しました。時期としては3Gの携帯電話と同じくらいの時期に終了ということになるということなのですが、この辺の事情について知っている人からすると、よく今まで販売とサポートを継続していたのだなあと思われる方も少なくないのではないでしょうか。

もともとは富士通が出していたワープロで日本語を入力するために、アルファベットのキー単体だけでの入力では日本語の五十音を出すことができないので(いわゆるホームポジションに指を置いて打てる範囲外の数字の場所にまでカナを割り付けないとカナ入力ができないようにJISかな形式はなってしまっています)、両手の親指でシフトキーを押しながら全ての文字をホームポジションから一打で出すことができるようになっているところに特徴があります。

現在パソコンで日本語入力をしている方は、ほとんどの方はローマ字入力で日本語を出していると思うのですが、これだといったん頭の中で日本語をアルファベットの羅列にしてから出すようになるため、若干頭の中でタイムラグが出ます。元々パソコンのキーボードは英文タイプライターの配列を採用していますが、この配列というのは純粋に打ち易さを考えて作られたものではなく、そもそも入力に力が要らないタイプライターとキーボードとは別物であるのに、多くの現場で使われていたタイプライター用の配列をそのまま採用したのは必然だったのかも知れませんが、この配列で日本語を打つというのは考えてみると不自然でもあります。

日本でのタイプライターの歴史は、知っている方は知っている「和文タイプライター」というもので、事業用の文章を作る場合に広く利用されていたのですが、2,000字以上ある漢字を全て小さなボードに配列した和文タイプライターをスラスラ打つためには相当の熟練が要求されました。ですから、画期的な「かな漢字変換」によるワープロの登場自体が日本の事務作業の大きな革命になったわけですが、そういった時代だからこそ、アルファベットの26文字の部分だけを覚えるのと、日本語かなの45文字を覚えるのは苦ではない中で、今となっては学習が大変なJISカナ規格が出来、それだけの学習時間をJISカナ習得にかけるなら、もっとスムーズに早く日本語を入力できる親指シフト入力が市民権を得、富士通の一社だけながら多くの人に使われてきた経緯があります。

私が親指シフトを学ぼうと思ったころは、時代はもはやワープロからパソコンに移っていて、あえて富士通のパソコンを買わなければ独特な配列の親指シフトキーボードを使うことも、富士通のOASISのシステムを使うことができませんでした。それが商品としての「親指シフト規格」の不幸で、ワープロがパソコンに置き換わるうちに、日本語入力はローマ字入力でというのが一般的になっていきました。

こうした流れに抵抗し、決して親指シフト方式を富士通の製品を使っていなければ利用できない状況を改善しようとした人がいて、出てきたのはパソコンのOS上で動くエミュレーターソフトの数々でした。OSとしてのDOSの時代からUNIX、Windows、MacOS、さらに現代はAndroid OSでもスマホにキーボードを接続すれば親指シフトのしやすいスペースバーの小さいキーボードで親指シフト入力ができてしまう環境は今も存在しています。私はそうしたエミュレーターソフトで親指シフトに触れた人間で、キングジムのポメラで親指シフト入力がサポートされた時にはそのためだけに購入したりしました。

ですから、今回のニュースがあっても親指シフト入力が全くできなくなってしまうことはないのですが、これから新しく親指シフト入力を使ってローマ字入力と違う直感的に日本語入力のできる方式に興味を持つ人がどのくらい出てくるのかということが、今後の課題ということになってくるのではないでしょうか。

これからパソコンを買って使おうと思っている人は、何のテキストもなければ、まず日本語入力をするためにはキーボードに書かれている文字を見て、かな入力にするかローマ字入力にするかを選ぶことになると思うので、親指シフト人口を増やすのはかなり厳しいでしょうし、パソコンよりもタブレットがリモート授業の受講に利用されつつある今、両手でキーボードを打つこと自体がマイナーな入力方法になりかねない感じもあります。

しかし、今では100円ショップでも売っているシールに文字を書いて貼り付ければキーボード表面の文字も気にせず、それほど学習スキルも必要なく日本語が入力できるため、英字を打つためのローマ字入力の能力は残したまま日本語入力専用に親指シフトをやってみるのも、多くの日本語を入力する人なら導入することは無駄ではないと思います。

というのも、単純に同じ文章を入力するための打鍵数が少なくなりますし、今の日本語入力ソフトは予測変換の機能が発達していて、論文などよく使う語句であったり、固有名詞のようなものは、全て入力して変換しなくても、かな入力の段階で候補の文字列をタブキーで選択することができるようになっているため(私の使っているGoogle日本語入力ではそのように操作します)、ひらがなの入力が早い親指シフトの方が余裕を持って文章作成にかかることができる気がします。

たまにしかパソコン上から文字を打たないという方には必要のない事かも知れませんが、自分の発信したいことを長文にまとめたり、本格的に創作活動を行ないたいと思っていたり、論文を書く機会が多い方については、家にいる時間のいくらかを新たな日本語入力方法の習得に費してみるのもいいのではないかと思います。今回のニュースを受ける形で、ある程度親指シフトに関するネットでの発言も増えるだろうと思いますので(このブログも含む)、ネット上を検索すれば今使っているパソコンでどのように親指シフトを実現するかということもわかると思いますし、エミュレーターソフトの導入から一通りの学習方法までネット上で入力することも可能です(実際のところは文章を書きながら覚えていくものです)。今の状況を活用するためにも興味のある方は調べてみてはいかがでしょうか。


カテゴリー: 通信サービス全般ニュース | 投稿日: | 投稿者:

てら について

主に普通の車(現在はホンダフィット)で、車中泊をしながら気ままな旅をするのが好きで、車中泊のブログを開設しました。車で出掛ける中で、モバイルのインターネット通信や防災用としても使える様々なグッズがたまってきたので、そうしたノウハウを公開しながら、自分への備忘録がわりにブログを書いています。

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