民放はAMラジオから撤退すべきか

ラジオのAM放送を廃止しFM放送に転換できるようにするため、民放連が総務省に制度改正を求める方針を決めたということがニュースになっています。実際は、スポンサーの問題で必ずしも利益を出すことが難しいラジオ局の運営ということを考える中で、塔の立て替えを含むAM送信設備のメンテナンスを行なうだけの費用を出せないので、基地局のメンテナンスが少額の投資で済むFMに移行したい地方局の窮状を何とかして凌ごうとする想いが透けて見えます。それだけ、AM放送の送信設備を維持することは大変なのだということがあります。

最近ではラジオ自体を聞くことがない方が多いと思いますのでピンと来ないかも知れませんが、AMラジオの放送を送信する場合、かなり高い鉄塔と広大な敷地が必要になりますし、鉄塔や機械設備、さらに停電時でも安定して放送を送信するための自前の発電施設を合わせたハードを維持することが大変な割に、国民の多くはAMの電波でラジオを聞いていないというコスト面での問題を多くのラジオ局は抱えているでしょう。

こうした流れは特に地方のラジオ局においては顕著だと思います。放送自体はコミュニティFM局並みの小出力の送信局を数多く設置することでエリアを確保し、聞きにくい人やエリア外聴取を希望する人に合わせてインターネットで同時配信することでラジオ放送としての体裁を整え、今までの番組をそのまま放送することも可能です。ユーザー的には今まで使っていたラジオのうち、「ワイドFM対応」のラジオでないと民放のラジオを聞けなくなってしまうという事もありますが、そこまでしてラジオを聞きたい方はワイドFM対応のラジオを手に入れるでしょうし、最近のスマホの中にはFMラジオがネットを介さなくても電波を受信して聞ける機種が少なからずありますので、平常時に限ってはそこまで地元局のAMを使ってのラジオ放送が終了しても困らないということはあるでしょう。しかしこれはあくまでも平常時の話です。

すでにネットでは多くの人が指摘していることですが、先の東日本大震災ではかなり広範囲で被害が起きる中で、様々なライフラインが切れました。断水や停電ということだけではなく、携帯電話の基地局への給電が断たれた場合や、そもそも基地局自体がやられてしまった場合、スマホを使ってのインターネットもできず、スマホも充電できないような状況になった方は多かったと思います。さらに、電波の停止という点では福島原発事故の影響もあり、日本全国をカバーしていた電波時計用の福島の送信所からの電波が止まったため、多くの電波時計で時刻修正のための電波が受信できなくなり、正確な時間を知るためにラジオを使った方もいたのではないでしょうか。

更に、災害時のラジオということを考えた時、広い範囲で大きな被害が出た場合、地元局の送信設備に被害が出た場合、放送をしたとしてもそれを待つ多くのリスナーに向けて届かない場合があります。これはあくまで電波の特性の話で、AM電波なら静岡の私の自宅付近からでも高出力の東京のニッポン放送の番組が昼でも普通に聞けるくらいのエリアがありますが、同じラジオでもFM東京の場合はかなり大規模なアンテナを建てないと聞こえませんし(これはかなり特別な設備を揃えないと無理で、一般的には同県エリアの局でも山間部では聞こえない場合もあります)、災害時に用意しているポータブルラジオやカーラジオでは、地元の送信所が壊滅した場合には情報が入ってこない最悪の状況も考えられます。

AMの電波のもう一つの特徴というのがあって、それは夜になると昼には聞こえなかった遠方の放送局が貧弱な受信機でもそれなりの感度で入ってくることがあります。ですから、AM放送を大出力で送信する設備を日本中の主な地点に置いておくことによって、昼間はAM・FMを含め地元局が全滅しているような状況が起こったとしても、最低限の情報は入手できるようになるわけです。また、地元のコミュニティFM局で災害情報に特化した放送が始まったとしても、常に災害情報だけを伝えられると気分が萎えてくるケースがあります。そんな時、同じように災害に関する放送を伝えていても、直接罹災していない地域で放送する番組というのは、多少の温度差がありその温度差にホッとするということもあります。例えば、罹災した現地では流せないような音楽を流したりするような遠方からの放送を聞くだけでも心が休まるということは十分に有り得ます。

このニュースについてのネット上での議論というのは、すぐに日本全国の民放AM局が無くなるのでは? というような感じで書かれているような方もいたのですが、個人的には大出力を有する日本の大きな都市に位置するなり、周波数の関係でそこまで出力は大きくなくても遠方まで届くラジオ関西のような放送局については、国が補助金を出してでもAM電波を使った放送を続けて欲しいというのが、個人的な希望ということになるでしょうか。AM電波を民放が全て停止しても、NHKがあれば十分という意見もあり、それはその通りなのですが、全国同じ放送で他に何の情報も得られないというのは個人的には辛いですし、私自身が日頃からNHK・民放を問わずラジオを聞いているということもあるので、せめて広いAM放送のエリアを持っている民放ラジオ局には残って欲しいなと思うわけです。


カテゴリー: 通信サービス全般ニュース | 投稿日: | 投稿者:

てら について

主に普通の車(現在はホンダフィット)で、車中泊をしながら気ままな旅をするのが好きで、車中泊のブログを開設しました。車で出掛ける中で、モバイルのインターネット通信や防災用としても使える様々なグッズがたまってきたので、そうしたノウハウを公開しながら、自分への備忘録がわりにブログを書いています。

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