私が楽天モバイルの回線を固定化させて自宅のネット用に使うまでは、ADSLのネットサービスを使っていました。電話回線のIP化とともに、メタル回線を使ってサービスを展開していたADSLもその使命を全うするわけですが、ここではそのADSLのたどった道を見ていくことで、改めて消費者よりも明らかに使いづらいサービスを守るという日本社会の状況を確認していきたいと思います。
そもそも、自宅にインターネットが入ってきたのは音声通話を行なう固定電話回線を使ってのものでした。最初は電話の受話機に付けるような「音響カプラ」からアナログ的にデータをやり取りするようなものでしたが、パソコンが一般家庭でも使われるようになってくると、電話回線にモデムを付けて通信する時だけ回線を使うような形での利用の仕方になりました。
ですから、一日中ずっとパソコンをネットにつなげていると、電話回線がふさがってしまい、いつ電話を掛けても話し中ということになり、家庭内でのトラブルの種になっていたのではないかと思います。そうした状況を改善し、さらにはつなぎ続けるといくら市内通話3分8円くらいの料金だったとしても、月の電話代がかさんでとんでもないことになるので、深夜から早朝に限って特定の電話番号に電話をする(多くはインターネットのプロバイダーがネットを提供する電話番号)場合に、その通話料を定額化した「テレホーダイ」というサービスが出てきたりしました。
ただ、これでも深夜に急な知らせで電話が入ったりするわけですから、インターネットを使っている時の話し中の問題は常につきまといました。そうした中で出てきたのが、今はもう影も形もないISDNというデジタル通信の方法でした。こちらの方は回線をメタル回線をISDNに移行すると回線が2回線分使えるようになるため、ネットをしながら電話ができるというのが売りでした。しかし、その時のネットのスピードは64kbpsと、今のスマホで低速とされる128kbpsの半分の速度でした(ちなみにメタル回線をそのまま使う場合は14kbpsとか28kbpsくらいでした)。
当時は文字だけのやり取りが普通でしたので、これくらいのスピードでも問題なかったのですが、次第にウェブブラウザで写真など大きなファイルを読み込みながら情報を見るような形になってきた中で、1~10Mbpsくらいのスピードでインターネット接続できないと、有益なインターネットの情報を見られないというような事になってきたのでした。
実はISDNが普及する前から、日本にある電話回線(メタル回線)を利用して高速のインターネットを提供しようとする研究がされていたのですが、NTTはISDNを普及させるためとしか考えようもない感じで、そうした技術を当初は採用しませんでした。それが、メタル回線を使って電話を使いながらでも電話局との距離に応じて1~10Mbps以上のスピードでインターネットを使うことができるADSLだったのです。
ADSLはヤフーなどNTT以外のところから普及してきましたが、そうした状況を見てNTTもようやく重い腰を上げるような形で2000年12月からフレッツADSLのサービスを開始したのです。私自身も仕方なくメタル回線をISDNにしていたのですが、ADSLが出てきたことで、もう一度回線をISDNからメタル回線に戻す工事を余儀なくされました。社会的にも実に無駄な一連の行為だったと思います。そしてこの事は、脈々と現代にも続いているのですね。
現在、これだけ家庭内でのインターネットが普及している中、テレビのインターネット同時配信というのは技術的には問題なくできるのにも関わらず、現在はNHKは地上波のみ(NHK+の利用で)、民放はTVerで夜のゴールデンタイムだけで、さらに驚くことに大画面テレビで直接見ることはできないようになっています。私は同時配信のできるパソコンやスマホ・タブレットにケーブルをつないでテレビで見ていますが、今の世の中でケーブルをわざわざ購入してテレビとパソコンから同時に流れる画象を見なければならないとは、実に滑稽ではないでしょうか。そんな事をしているからなのかわかりませんが、一部の方々はテレビ離れを起こし、ドン・キホーテやニトリではチューナーのないテレビが売られ、それが人気だそうです。AmazonのFire Stickを付けてネットに繋げば、一通りのネット動画や配信が見られるようになるので、あえてNHKを見なければ、受信料を払うこともなく多くのコンテンツが楽しめるようになっています。
特にBSのような衛星放送の場合、雲が厚くなっただけでも電波を受信しずらくなり、本当はリアルタイムに情報が欲しい人にとってストレスの種になる場合もあります。台風が来ているその時にテレビが見られないというのなら、可能ならばインターネットでその地方で見られる放送を同時配信するくらいのことはやっておいた方が、あらゆる災害について考えた場合、情報伝達を確実にするためには大切なことだと思います。直接アンテナで電波を受信できない時もあるわけですから。
そして、すでに高速インターネット自体が国内ではライフライン級の利用のされ方をしている中では、いかに安定して安く供給するのかということも大事なことだろうと思います。今後の状況はネット費用に関しても利用者の懐を痛めるような方向に向かいつつあるかも知れず、私たちが今回サービスを終了するADSLの歴史から考えなければならないことはたくさんあるのではないかと思うのですが。