日本とFIFAワールドカップを語る中で中東カタールのドーハという地は実にドラマチックに「悲劇」と「歓喜」を与えてくれている印象があります。昨日のサッカーFIFAワールドカップの予選リーグを突破するまでは、カタールの首都ドーハと言えば「ドーハの悲劇」というキーワードで語られることがほとんどでした。
その舞台となったのは、ドーハのアル・アリ競技場で1993年10月28日に開催されたFIFAワールドカップアメリカ大会のアジア地区最終予選、イラク対日本の試合です。
その年のアジア地区最終予選はドーハで集中して行なわれ、予選を勝ち抜いた6ヶ国が総当りのリーグ戦を行ない上位2チームが本大会出場となります。日本は初戦のサウジアラビアに0対0で引き分け、2試合目イランに1対2で惜敗。しかしここからメンバーを変えて臨み、3試合目の北朝鮮には3対0で勝ち、4試合目の対韓国戦にも1対0で勝利し、本大会出場をぐっと引き寄せます。この時点で日本はトップに立ち、イラクとの最終戦を迎えるわけです。ちなみに、最終戦の結果によっては北朝鮮以外の5ヶ国に本大会出場の可能性を残す状況になっていました。
最終戦でイラクに勝てば文句なく本大会出場ですが、負ければその可能性は小さくなり、引き分けの場合はさらに条件が複雑になります。運命の最終戦は同時にキックオフされ、後半45分経過時点でイラクを2対1とリード、このまま試合が終わればアメリカ大会出場が叶います。
しかし結果はご存知の通りロスタイムに致命的な失点をして引き分けました。この結果、勝ち点でサウジアラビアに抜かれ、さらに勝ち点で並んだ韓国とは得失点差2でリーグ戦3位となり、アメリカ大会出場を逃すのです。ですから、韓国にとってこの年のアジア地区最終予選は「ドーハの歓喜」でもあったわけです。まさに天国と地獄を日本と韓国は味わったのでした。
当時、日本はワールドカップに出場できるチーム力向上を目指し、Jリーグができたばかりでサッカー人気も大いに高かったので、その落胆たるやとんでもないものでしたが、あの敗戦によって、選手だけでなく見ている方にも「ロスタイムまで気を抜かずに最後まで諦めずにプレーする」ことの大切さというものを考えた方も少なくなかったのではないでしょうか。
翻って昨日の2022FIFAワールドカップカタール大会の予選リーグE組の最終戦も、4チーム全てに決勝トーナメント進出だけでなく敗退の可能性を残すシビアな試合となりました。試合前には「スペインは1位抜けをすると準々決勝でブラジルと当たるので日本にわざと負けるのでは?」というような憶測が流れましたが、当然ながらそんなことはありません。同時刻に行なわれたドイツ対コスタリカ戦でコスタリカがリードした時点ではスペインは日本にリードを許していたので、このまま試合が終わったら日本とコスタリカが決勝トーナメントに進み、ドイツだけでなくスペインも予選敗退する危険性があったのです。
ただ、逆転されてからドイツは一気に試合を動かし、最終戦開始前に言われていた日本対スペインが引き分けた場合のドイツの予選突破条件である「2点差を付けて勝つ」という条件をクリアし、4対2で勝利しました。私はここにドイツチームの強さを見ます。本当に予選リーグで敗退するようなチームではありません。
そうなるとポイントになるのは、日本が2対1とリードした後の展開および、今も大きな騒動となっている日本の2点目は本当にゴールだったのか? という点です。まず、スペインはドイツ戦の様子を見ながら、ロスタイムぐらいには予選敗退の可能性がなくなったので、多少は差し引いて考える部分はあるものの、7分あるロスタイムを守り切ったのはおよそ30年前に森保一監督が選手として体験した「ドーハの悲劇」があったからこその試合運びだったと言えると思います。
そして、日本の2点目の判定については、VTRを見ての判定ということで以前のワールドカップとは異なるものの、最終的には主審の判断で決まることなので、まさに髪の毛一本、ミリ単位の差で日本が予選突破できたということになります。しかし、もし三笘選手が最後のセンタリングをボールが出たからとセルフジャッジして諦めていたら今回の結果にはなりませんでした。その点も「ドーハの悲劇」を払拭した日本チームの強さを感じるところです。ただ、今回予選突破できなかったドイツは特にそうですし、コスタリカも日本に得点を与えず勝利した素晴らしいチームであり、決勝トーナメントに出場するチームにふさわしいチームであったと思えます。
今後、FIFAワールドカップでは参加国を増やし、2026年北米で開催される大会ではこの文章を書いている時点で、全部で48ヶ国(アフリカ9・欧州16・南米6・北中米カリブ海6・アジア8・オセアニア1・大陸間プレーオフ2)となることに批判的な意見もあると思いますが、さすがに次回の大会では、実力のある国が予選リーグで敗退するような事は起こらないと思いますし、その分ノックダウン方式の真剣勝負が多く見られるようになるのではないでしょうか。
まだワールドカップは続き、日本チームはクロアチアに勝てれば嬉しいですが、クロアチアはドイツ・スペインにも劣らない強豪国ですし、トーナメントは何が起こるかわからないので、日本チームにはしっかり準備をして万全の状態で望んでほしいと願っています。