新型コロナウィルスの関係で、飲食業界とともに厳しいのが、エンターテインメント業界だと言われています。コロナ騒動の初期からクラスターが発生したことで今でもなかなかお客さんを多く入れての営業ができないライブハウスでは、ライブハウスのオーナーだけでなく演奏するミュージシャンも活動の場を奪われてしまっています。
2020年の10月にヤマハは、こうしたライブ・コンサートの臨場感を再現するためのシステム「Distance Viewing(ディスタンスビューイング)」を発表しました。ステージにおけるミュージシャンの動きをカメラで撮影し、大型プロジェクターを使ってライブの音と映像を再現するのですが、その際、ステージの照明のパターンやミキサーの操作情報もデータ化して、あたかも目の前でミュージシャンがパフォーマンスをしているような形でのライブ再現が可能になるという触れ込みです。
もちろん、全てが同じというわけにはいかないものの、現在のライブハウスでは店内を満員にするまで人を詰め込むわけにもいかない中、いったん記録したライブデーターを何回かに分けて上映することで、ミュージシャンの負担も少なくなりますし、ライブハウスの集客という点でも回数を分けることで集客力が高まる効果が期待されます。直接ミュージシャンと触れ合うことができないのはライブハウスの魅力を一部削ぐような事になってしまうところはあるのですが、バーチャルなライブの再現なら全国どこでも開催でき、それにリモートトークなどをからませれば、今までは大都市に行かなければ体験できなかったライブ感を観衆はある程度体験できるということにもなるでしょう。
個人的には、さらにシステムがバージョンアップして、ミュージシャン特有の音をできるだけライブ会場で直接聞くくらいまでレベルアップしてもらえると、コロナ関連ではない需要が生まれるのではないかと期待するところがあります。
どういうことかと言うと、いつの世にも「伝説の」と付くようなミュージシャンのセッションはあると思うのですが、これが音だけで記録されたものではなく、その時のミキサーの操作までライブ時と同じに保たれ、さらにその場の雰囲気もライティングで似せることができるとしたら、伝説の演奏というのはいつでもこのシステムを使って再現できるということになります。
つまり、このシステムで現在の最高のライブパフォーマンスをあらゆるジャンルに渡って記録することを続けていければ、例えば私たちがモーツァルトの指揮するオペラの記録やジャズのチャーリー・パーカーのセッションを当時の雰囲気そのままでライブ会場に出向けば見られるようになるくらいの事が未来には起こるということになります。逆にそうなると、現役のミュージシャンは過去の伝説のミュージシャンと比べられてしまうというところがありますが、逆に自分の能力を伸ばす上での格好の材料にもなるのではないでしょうか。
さらにこのシステムを使う場合、個人レベルではなかなか記録されたライブを再現するだけの設備を用意できないので、ライブハウスの営業自体を食うようなこともないという点でしょう。コロナ後の社会ではライブの予定のない時間帯に過去の名演を楽しむような形で、ライブハウスの集客力もアップするのではないかと思いますし、今後のシステムのバージョンアップでどんなものができてくるのか、個人的にも楽しみです。