日本では季節によって様々な作物が収穫でき、春夏秋冬どこかでおいしくいただける名物があるものです。そんな中、シーズンを迎えた温州みかんの地域ブランドで、抜群の糖度があり人気も最高の「三ヶ日みかん」の農家さんの受難に関することが地域のニュースとなって配信されてきました。
全国どこの地域でもある「無人販売所」は、売る方にも買う方にもメリットの多い手法です。自分の田んぼや畑の近くに販売所を設置し、お金を入れる箱を設置すれば道の駅のように許可をとったりしなくても、すぐに自分の所で収穫した農作物を販売することができます。人気の無人販売所では近所からだけでなくわざわざ遠方から来てくれる人もいるかも知れませんし、人件費がかからずに販売ができるというのは、現金収入のない農家さんにとっては大変ありがたいものでしょう。
また、購入する側にとっても、まさか無人販売所でその土地とは全く関係ない作物を売るということはないでしょうから、生産者の顔を想像しながら安心して購入することができますし、金銭の授受を簡略化しているがゆえのメリットもあります。それは、お店だとどうしても細かい価格になっていて支払いがめんどくさいところ、無人販売では利便性の面から細かい端数の出ない売値にしている状態で量も多くなっていたりして、あくまで原価に近い状態で安く購入できるということです。
そんな貴重な場所である無人販売所の状況が色々と変わりつつあるというのが全国的な傾向なのだそうで、今回ニュースで見た三ヶ日みかんの産地でも起こっています。ここまで書けば多くの方はおわかりでしょうが、無人店に出ている作物を持って行っているのにお金を入れなかったり記載されている価格を無視して、少ししかお金を入れないで持って帰る万引き行為が後をたたないのだそうです。
地元紙の取材に応じた老夫婦は不本意ながらも販売所の中にお金を出して監視カメラおよびカメラ稼働用のバッテリーを数万円のコストを掛けて設置したところ、ひどい時には商品の半分が万引きの被害に遭っていたこともあった以前と比べて、カメラに写った姿から窃盗犯の特定ができたこともあって被害額が目に見えて減っていったとのことです。しかし、そうした設備投資をしないと、タダではないとわかっていても持って行ってしまう人が無くならないのでは、ダミーの監視カメラが見破られたり、何の対策もしていない善意の無人販売所が万引きの被害に遭ったまま泣き寝入りしてしまうことを意味します。今後の無人販売所のあり方についても、販売所そのものを閉鎖する事を含めて生産者は考え直すことも予想されます。
農産物の窃盗については、収穫直前ですぐに売れる人気の農産物に狙いを付けて、一気に収穫しながら盗んで行く事件は全国で起こり、問題になっています。そうした事件と比べると無人販売所での万引きは規模こそ小さいですがやっていることは同じで、罪も大きいということを忘れてはいけないでしょう。
今後、従来の形の無人販売が継続できなくなるくらいの万引き行為が深刻な被害を農家の方々に与えるくらいになってしまったら、ごくごく零細にやっているところを除いては、卵やイチゴの無人販売で良く見るような自動販売機形式での無人販売を考えるところも出てくるかも知れませんし、生産者自体が手広く商売をしているところの中には、クレジットカードや電子マネーをかざすことで目的の品物が入っているケースを開けて商品を取るような機材を導入して、料金もしっかりと消費税込みのものを取るようなことにもなってくるのかも知れません。ただそうした機械を販売目的で使えるところというのはある程度限られてしまい、そういうところにも大規模にやっている農家と、あくまで小規模にやっている所との格差がさらに広がってしまい、買う方としても今までのような素朴な無人販売所での買い物を楽しめなくなってしまうような気もします。
日本が欧米と違うのが、行き届いた公衆道徳を多くの人が守ることだと言われていた時代もありました。それこそ誰でも開けることのできるクッキーの缶にお金を入れるような形式の無人販売でも、夕方に生産者が行けばきちんと売上げと金額が一致しているようなことが普通だったのです。現代の日本は国内でも一部のマナーの悪い旅行客が場を荒らす事例もあるなど、そうした過去の状況とは違うことは当然わかってはいますが、せめて昔から無人販売があったことを知っている人の間では、やはり購入した分のお金はきちんと箱に入れて、小規模で消費税も取らないで販売してくれる農家さんに感謝する気持ちを持って無人販売所を利用するというのが大事になっていくのだろうと思います。