車中泊徒然草+

ヤフーとLINEはネット上に新たな価値を生み出せるのか

前回まで連続で先日泊まった宿の紹介をしている間に、世間ではネット界だけでなく大手マスコミもトップで報じるニュースが有りました。ヤフーとLINEが経営統合に乗り出すということです。

現在、インターネットを利用しているほとんどの人たちが「GAFA」(Google・Apple・Facebook・Amazon)のサービスをどっぷり利用しています。このままでは大手の一人勝ちになってしまうと危機感を持ったヤフーとLINEが、日本をはじめとして東南アジアで新たな波を起こそうと提携するということなのですが、果たしてそううまく行くものなのかという風につい考えてしまいます。

個人のインターネットユーザーは自らの個人データを提供することによってカーナビが無料で使えたり、便利にネットショッピングができるようになったり、友人とのコミュニケーションを取れるようになったりしています。私自身の事で言っても、電子書籍のおかげで自分の部屋をこれ以上紙の本で圧迫されることはなくなりましたし、年に数回しか集まらないような友人達とも簡単に連絡を付けることができ、毎年一回集まることのできる連絡ツールとしてFacebookを活用させていただいています。

この種のサービスをそっくりヤフー&LINE陣営に移すことは、たとえこの試みが成功しても難しいのではないかと思います。お隣の中国の場合は、今年は思い切りアメリカに制裁を掛けられたものの、民主主義国家でないことが逆に幸いというか、「GAFA」の提供するほとんどのサービスが国内の業者によって置き換えられており(データのやり取りを国内に留めておきたい中国政府の方針でもあります)、2019年にあったアメリカの制裁にあたっても主に輸出用のハードには影響が出たものの、中国国内のネット関係ではアメリカが思ったような圧力が掛けられなかったのが実際のところでしょう。

日本でも、今後決してアメリカの言いなりにならないようにしていくつもりが政府にあるなら、むしろGoogleやAmazonがストップしてもそれに代わるようなサービスを国内および東南アジアで展開するというやり方も一つあるとは思います。今はまだ当然「GAFA」の規模には遠く及ばないものの、それこそ中国と連携するなどすれば、反アメリカの立場を取っている国を中心に、大手に肉薄する可能性というものも出てきます。ただ、今後日本のアメリカよりの政策が転換する可能性は薄いでしょうし、何よりヤフーの孫正義氏が国産パソコン用OSの「Tron」を日本のスタンダードなパソコンOSにする事を排除するのに動いたという話は有名です。その裏には米マイクロソフトのウィンドウズを日本でも普及させるためだったという歴史から考えると、今さらGAFAと喧嘩をして日本独自のサービスを普及させようとは思っていないはずです。

今回のニュースで不安に思うのは、ヤフーとLINEが一緒になってどんな新しい事をするの? というところにあります。ソフトバンク自体はすごい会社だと思いますが、独自に何かを作ったのではなく多くの買収を行ないながら大きくなっていった企業なだけに、オリジナリティに乏しいのです。また、LINEアプリを色々拡充しても、多くのユーザーはメッセージ機能を中心に使っているに過ぎません。そこからLINEアプリで何を目指して行くのかというところがいまいち見えてきません。

私が思うに、画期的なインターネットサービスを提供し、「GAFA」の方からそのシステムを使いたいとすり寄ってくるようでなければ、なかなか世界で戦うのは難しいのではないかと思います。そんな中、実に象徴的だった話があります。それはAppleやGoogleさえも苦しんだ、デジタルマップの領域で優位に立つ「ゼンリン」の素晴らしさです。かつてAppleがマップで自前のデータに切り替えたところ、とんでもない間違いが連発して使いものにならなくなったことや、最近のGoogle Mapでも一部ゼンリンとの提携を止めた時点で、それまでの地図との違いがユーザーにすぐにわかってしまい、ネットがざわつくほどの騒ぎになったことは記憶に新しいところです。

地図を作るためにはドローンを飛ばしたり360度の範囲が写るカメラが屋根に乗った車を全国くまなく走らせ、写真から地画を作る事で大丈夫かと思いがちですが、決してそうではないでしょう。ゼンリンの地図の作り方というのはあくまでも人海戦術で、アパートの表札まで見て地図更新のための情報収集を行なっています。今でも毎年130億円程度をかけて調査員を全国に派遣し、過去データとの違いを見付けては地図を更新するというデジタルの中のアナログ的な汗をかく行動を続けていることは、正直すごいなと思います。

元々、ゼンリンという会社は別府の観光案内書を作る中でその付録の詳細な地図が評判となったことから住宅地図へと事業の幅を広げ、一年ごとにデータを更新した全国の住宅地図を作ったことで知られています。創業時から多くの調査員を現地に派遣し、足で回って情報を得る努力をこまめにしていて、デジタルの時代になってもその歩みを止めていません。昔からのデータの蓄積及び現在でも足でかせぐ姿勢というのは、他の追随を許さないところがあります。インターネットであらかたのものが調べられてしまう時代に生きる私たちは、つい押せば出てくる情報に頼ってしまいがちになります。しかしある意味「合理的でないもの」を徹底的に止めてしまうことで失うものもあり、そのすき間をつくような形でゼンリンは今でもIT界の巨人に対しても対等に戦うことのできるスキルを持っています。果たしてヤフーとLINEにはそのような新事業を切り開く覚悟があるのかということですね。

全てがネット上の作業で済むならそれでいいですが、そうでない場合はまだ現地に行って見てこないとわからないものもありますし、日本国内のことをそんなに多く知らない人が作っているものがスタンダードなインフラになってしまうと困ることもあります。どうせなら日本発のきめ細やかで今までのインターネットでは実現できなかったことを積極的に行なうような事業をヤフーとLINEには期待したいですね。逆にそうでなければ、せっかく作ったヤフーとLINE合同のコンテンツすら大手に吸収されて消えてしまうような未来になってしまうかも知れません。個人的には今回の提携の先に、何とかしてまだ大手の行なっていないサービスの隙間にでも入っていって欲しいと思います。

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