温泉地の立入禁止場所には理由がある

ネコが施設内に入り込んだという通報を受け、神戸市北区有馬町の資料館「神戸市立太閤の湯殿館」(注・入浴できる温泉施設「太閤の湯」とは違います)の中に展示されている「岩風呂遺構」の中で倒れている同施設職員の男性がお亡くなりになりました。このニュースでは現場ではない入浴施設や、有馬温泉全体への風評被害が今後起こるかも知れないので、あくまで冷静に現状をとらえることにします。

話は阪神淡路大震災の時にさかのぼるのですが、今回事故のあった「神戸市立太閤の湯殿館」という建物はその場所には建っておらず、極楽寺というお寺がある場所でした。震災によって極楽寺の書庫を建て替えることになりその場の発掘調査をしたところ出てきたのが豊臣秀吉が入浴したという「岩風呂遺構」を含む湯山御殿跡の数々でした。豊臣氏から徳川の世になったことで豊臣の世がしのばれる施設はそのほとんどが潰され、その跡地に極楽寺と念仏寺が建てられたということなので、震災後の調査をきっかけにして神戸市はその遺構を約400年振りに再現して保存するための施設を作りました。それが「神戸市立太閤の湯殿館」なのです。

当時の庭については埋め戻してあるものの、蒸し風呂と岩風呂については復元して豊臣秀吉が入浴した時の姿を今でも見ることができます。今回事故が起きたのは岩風呂の中だと思われ、さらにこの遺構は室内に展示されているものだったので、岩風呂遺構のところから有馬温泉特有の炭酸ガスが出ていたとすると、展示室の一番下の部分にはほとんど空気がなく炭酸ガスだけだったことが事故につながったものと思われます。炭酸ガスは空気より重いので、建物の一番低いところにある岩風呂の底に溜まっていたものと思われ、そこまで人間やネコが降りてしまったとしたらすぐに意識を失い、命の危険のある場所であったことは今回の事故の結果を見ても明らかでした。

恐らく一般のお客さんが上から岩風呂遺構を見るだけなら問題ないと思われますが、温泉の様子も再現しているということになると昔から変わらずに炭酸ガスが出ていたということになると思うので、なぜ職員に無防備で岩風呂の底まで行かせてしまったのかということが、事故の検証をする中で今後問題になってくると思います。

今回は建物の中で普段人が入ることのない場所であったこともあり、そこまでの危険性が徹底されていなかったことが考えられますが、温泉というものは単に温かいお湯が出てくるだけでなく、その泉質によっては有毒なガスが出てくることもあります。今回の炭酸ガスのように炭酸水など人の役に立つものではあってもまともに吸い込んだら命に関わる事もあるので、むやみに入浴や立入禁止の区域に入っていくことは避けた方がいいでしょう。

古くは福島県の安達太良山で火山性ガスの硫化水素を吸い込んでしまったことにより多くの犠牲者を出してしまった事故がありました。この時には危険な地域に人が入らないように柵やロープで人が入らないように対策されていたそうですが、霧が出ていて不幸にも火山性ガスが出ている場所に迷い込んだ人がいた事が悲劇につながってしまいました。

ガスはたとえ屋外であっても窪地に溜まりやすく、有名な温泉地でもそうしたガス中毒の危険があるところでは立入禁止区域として規制されているのが普通です。しかし、以前北海道の登別温泉に行った時、河原から湯気が上がる場所に入って遊んでいる観光客の姿を見たのですが、その人たちは温泉から発生するガス中毒の恐さというものを知らないのでしょう。河原から湯気が吹き出しているということは、状況によっては急に吹き出してきた水蒸気で火傷をする危険性もあります。

また、車中泊の旅では見知らぬ土地で自然の温泉に入浴するような事をされている方もいると思いますが、地元の人が管理している温泉の場合には地元の方の指示に従い、立入禁止になっている場所にはその理由があることをまずは連想し、決して無理に入ろうとしないことも大事です。また、全く人の手が入っていない場所で温泉に入るような場合も、事前に情報収集したりその時の風向きに気を付けたり、どうしても入りたい場合はガイドしてくれる人に同行をお願いするなど、くれぐれも自然の力を甘く見ないように心掛けていただきたいです。


カテゴリー: 旅行・交通関連ニュース | 投稿日: | 投稿者:

てら について

主に普通の車(現在はホンダフィット)で、車中泊をしながら気ままな旅をするのが好きで、車中泊のブログを開設しました。車で出掛ける中で、モバイルのインターネット通信や防災用としても使える様々なグッズがたまってきたので、そうしたノウハウを公開しながら、自分への備忘録がわりにブログを書いています。

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