昔、まだ私が学生だった頃、漫画以外に本を読むような機会は少なく、いわゆる文学作品というところまで届かない中で楽しく読んだ作家の中に星新一さんがいます。当時は、ラジオで星新一さんのショートショートを朗読する番組があり、私は本より先に朗読で星さんの作品に触れたことを思い出します。
その星新一さんは本日2026年9月6日に生誕100年を迎えられたということで、単行本未発表の作品集「きまぐれカプセル」が出ていることを事前に放送されたBSテレ東の番組で知りました。
番組では当然ながらショートショートの名作を出演者が挙げていましたが、その中で言われていたことは簡素な文体であっても内容が深いということです。今でも小学生あたりからでもその内容を面白く読むことはできるのですが、自分の人生を生きていくに従って新たな発見があるような、実は内容の濃い作品の数々を世の中に出してきた氏の功績は大で、今でももっと読まれて良い作家であると私は思います。
私自身は星新一さんに直接お会いしたことはありませんが、学生時代にたまたま近所の大学で講演会があり、聞きに行きました。「発想のヒント」という題名でしたが、落語などおもしろ話がほとんどで、小説の内容とはちょっと違った人柄にびっくりしたことを覚えています。発想の方法としては、当り前のことを考えるのではなく、あるもの何かをくっつける場合、性質の全く違うものをくっつけたらどうなるのかというような例を出してご自身の発想の方法について話してくれました。
その後、他の作家さんを読むようになって次第に星さんのショートショートは読まなくなっていったのですが、その後出会ったのが、氏の書く明治時代の人物記でした。そもそも星さんの父親である星製薬を創業した星一という方は、野口英世や伊藤博文といった明治の偉人と関係した方です。星一さんが先生と呼んだ、作家・夢野久作の父親としても知られている思想家の杉山茂丸氏が、当時アメリカで活動していた星一に聞き書きした内容を含んだ「百魔」の中の内容を参考に自分の父親の若き日の姿を書いた「明治・父・アメリカ」、さらにその後、日本で星製薬を興してからの苦難の姿を書いた「人民は弱し 官吏は強し」は今につながる政界のドロドロを描いています。
その他に、父親との関係を軸に明治期に活躍した様々な人物を紹介した「明治の人物誌」は、それこそ平易な文章で教科書で見た偉人の姿を生き生きと描いています。特に有名でも一体どんな人だったのかと思うくらい色んなことをした伊藤博文については、星新一さんもこの人の評伝を書くのは無理だろうと書いていたように覚えています。
星新一さんは政府から攻撃を受けて瀕死の状況になった星製薬を引き継ぎましたが、実業の世界で活躍するのではなく、その後作家として有名になり、そこで自分の父や祖父についても多くの文章を書きました。こう書くとかなり生真面目な方という感じもしますが、実際のところはエンターテイナー的なところがあり、氏がお亡くなりになった後に行なわれた「ホシズルの日」では、氏の様々な一面が発表されました。たまたまイベントとして参加できることを知り、当時星新一好きな友人がいたので一緒に出掛けてきたのでした。
私自身は作品は読んでいても付き合いとかそういうものはなく、雲の上の存在ではありましたが、その作品は時代を超えて読まれていく力はあると思います。本屋さんでは特設コーナーができていて、氏の作品は今の時期かなり並んでいます。学校や地域の図書館にも多くあると思いますので、今回の生誕100年をきっかけにして、もっと多くの読者が生まれて欲しいなと思っています。