知識がなければ想像もできない?

 世の中、殺伐としたニュースがちらほら見受けられますが、そうしたニュースのコメントとして出てくるキーワードに「想像力の欠如」ということがあります。マスコミで大きな報道がされた後で後悔することのないよう、事を起こす前にどうなるかの想像力があれば良かったのにというニュアンスのようです。

 この文章を書いている時期に入ってきたニュースの中に、かなり多くの地域で盲導犬に対する虐待やいたずらをしている事例があるということがありました。もちろん、そんなことをする輩は擁護出来ませんが、実際の盲導犬の性質やその訓練について無知であることが少なからず影響しているのではないかと私は思っています。例えば、通常ではペット禁止の場所に盲導犬が入ってきた場合、知らなければ犬が入ってくるなんてとんでもないから追い出せと言う人が出ても不思議ではありません。

 実際、私が小中高と学校へ行っていて、盲導犬について学んだ記憶がありません。盲導犬をあくまで一匹の犬と見れば、スーパーやレストランに出入りする姿を見て、もし私が犬嫌いだったらあまりいい感情は持たなかったろうと思います。何の偶然かわかりませんが、たまたま昨日夜のテレビで、盲導犬の一生を追った映画「クイール」が放送されましたが私の場合、最初に盲導犬を育てる事の難しさや、どんな訓練をされているかを知るきっかけとなったのは、井上ひさしさんの小説「野球盲導犬チビの告白」(現在は絶版)を読んだことがけっかけでした。特に全盲の方にとっては外に出て一人で移動するために盲導犬が必要とされるのにも関わらず、限られた頭数しか提供できないことや、訓練士の方が薄給でも使命感で続けておられる場合が多い(当時)話も初めてわかったことでした。さらに実際に盲導犬としてデビューしたあかつきには、外では決して吠えずに大人しくしているように訓練をされていて、その積み重ねが評価されて、普通なら入れない食品を扱うお店にも入店することができる信頼が得られていることも知りました。さらに言うと、盲導犬がかわいいからと言って餌を上げようとすることはご法度です。というのも、盲導犬がハーネスを付け、利用者と一緒に出掛けている時は「お仕事の時間」であり、そこに集中力を削ぐ事にしかならない餌をちらつかせることは、注意力を散漫にし、もし食べてしまったらそれがきっかけで体調を崩してしまう危険性すらあります。

 井上ひさしさんの小説はその題名からおわかりの通り、目の見えない主人公が特別に野球用に訓練された盲導犬「チビ」と一緒に当時のプロ野球「大洋ホエールズ」に入り、活躍する様子が盲導犬「チビ」の目線から語られたエンターテイメントですが、単なる娯楽としては終わらない井上さんらしい秀作です。ただ、井上さんの立場としてアンチ巨人および反自民党といった表現が顕著ですので、巨人や自民党を心から応援されている方は避けたほうが無難かとは思いますが(^^;)。私はあまりそういうことが気にならない時期に読んだため、自然と盲導犬についての知識が入ってきましたが、もしこの本に出会っていなければ今話題になっている盲導犬への虐待までは行かなくても、盲導犬に関する間違った偏見を持ち続けてしまうことにもなってしまったかも知れません。今の学校ではこうしたことを教えるカリキュラムがあるかどうか存じ上げませんが、さまざまな生活弱者の実情について、一通り知識として持っているだけでも理不尽な偏見を持つことは避けられるような気がします。


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