美しい日本の風景を訪ねる旅

 今年は以前と比べると大きな画面のテレビを購入したせいか、衛星放送で映画を見ることが多かったのですが、つい先日見た1936年松竹大船制作 清水宏監督「有りがたうさん」(旧かなづかいなのは制作年のためです)は実に興味深いロードムービーでした。

 映画の内容は題名でネット検索をかければすぐにどんな映画かわかるので興味のある方は見ていただければいいと思いますが、物語の展開として南伊豆の恐らく下田から乗合バスに乗った運転手および乗客の様子を、旧天城トンネルを抜けて沼津・三島方面へと続く天城街道の風景をずっと流しながらストーリーが展開されていきます。公開されたのが何とあの二・二六事件のすぐ後というかなり古い時期のもので、原作となった川端康成氏がまだノーベル賞を受賞するはるか前に映画を作っているというのにまずは驚かされます。

 当時の街道では車で移動する人はほとんどなく、映画にはバイクも出てきません。ちなみに、ちょっと前に静岡市にある自宅を日の出とともに出発し、修善寺の先あたりまで原付で行ったことがあります(^^;)。その時はあえて旧街道を行き映画にもある天城トンネルも通り抜けましたが、天城トンネル周辺を歩く人はいても、長い距離を歩いて移動する人もなく、私のようにあえて原付で走る人こそ何をやっているんだというような目で見られていたように思います。しかし昭和初期の街道では歩いて峠を越える人がほとんどで、その様子が実に生々しいと思ったら、映画の中には実際に街道を歩いて行き来する人たちの映像も混ざっていると知り、その臨場感に圧倒されっぱなしでした。その反面、出演者のしゃべる台詞はかなり間が伸びていて現代の早口でしゃべるドラマを見慣れていると筋立てを追うのがつらかったですが。

 映画の中の街道は実にほのぼのしていて古き良き日本の風景だなあと思えるものも多くありましたが、残念と言っていいのか悪いのか、今日の天城街道ではそのような風景はほとんど消えてしまいました。映画のように、今の日本で車を運転していて頻繁に歩いて旅をする人と行き交うなんてところは四国にでも行かないとありませんが、逆に言うと四国のお遍路というのはこれからどれほど道路が整備され、新しい交通手段が開発されたとしても大きく変わることはないでしょう。

 私が日本を旅していく中で、映画で見たような古い日本の姿を瞬間ではありますが垣間見えることがあります。しかしそうして目にした風景も今後の日本の状況によってはすぐに消えてしまったり見て感動を呼ばないものに変貌する可能性というのもはいくらでもあります。そしてそれは、個人の思い入れだけではおいそれと元に戻せないことでもあります。

 車中泊による旅というのは、普段の生活の中ではなかなか気付くことのできない日本各地における風景や風俗を間近まで迫って感じることのできる旅の方法だと思うことがあります。単なる個人のブログでできることも限られてはいますが、これからは旅先で出会った興味深いことなどもここで紹介していければと思っています。


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