災害時の「車中泊者」を避難所に誘導するために

 以前このブログで記事を書くためにメールのやり取りをさせていただいた新潟大学の榛沢和彦氏より案内をいただきまして、今週末に行なわれた新潟大学の学園祭の中で開催されたエコノミー症候群対策のための展示を見に行ってきました。実際に被災地で行なっていたという下肢静脈エコー検査や、予防のための弾性ストッキングの配布なども行なわれていましたが、予防のための最良の方法として提案されていたのが段ボール製簡易ベッドを組んで避難所に置くということでした。

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 このベッドの仕組みは、大きなダンボールの中に小さいダンボールを4つ入れ、写真のように並べます。そして大きなダンボール6つをまとめて1つのベッドとして使うというものです。ダンボールの中は空気なので床の冷気を伝えることがないので、そのまま上に寝ても床板の温度をそのまま感じることはなくなりますし、普通のマットレスを敷けばさらに快適度は上がります。

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 会場ではフロアに40くらいの数のベッドが置かれていましたが、写真のように間仕切りもダンボールでできていて、一応のプライバシーが保たれるように工夫されています。実際に横になってみましたが、上から相当強い衝撃を与えたとしても大丈夫そうでした。避難所で子供たちが乗って暴れても(^^;)、マットを敷いておけばそれほどのダメージはないのではないかと思えるほどです。

 私が来場した際にはマスコミの取材も大勢入っていて、榛沢氏もその対応で忙しそうにしていたので少ししかお話を伺うことはできませんでしたが、このベッドの導入については従来の備蓄とは違う供給方法が考えられているとのことでした。というのも、被災した自治体などがそれぞれダンボールのベッドキットを備蓄するのではなく、特定の地方で大災害が起こった場合に災害の影響を受けていないダンボール工場でキットを生産し、事前に登録をされた場所へ向けて必要な分だけすぐに発送することで被災地のニーズに応えるというものです。これなら、事前の防災用予算が発生しませんし、日頃のメンテナンスも必要ないので、いざという時には発注をかけるだけで済むという事になります。

 こうして体育館などで必要な分のベッドが設置される状況が普通になると、恐らく被災者にも一定の変化が起こることが考えられます。例えばの話、自分の場合であっても自宅から避難することになったとして、よくテレビに写る体育館に集まって毛布だけが支給されるようなところで寝なければならないと思うと、かなり気が重くなります。私の場合は車中泊用にも使えるキャンプ用のベッドとかマットなどの装備や、目隠しや着替えにも使えるテントなども持っていますが、そうした便利な器具を自分や自分の家族だけで使う気にはとてもなれません。そうなると自然と避難所を利用しないで自宅周辺でのテント生活とか車中泊となってしまうわけですね(^^;)。そんな用意がないご家庭でも、あんな板の間に直接寝るよりはまだクッションのある車の中で寝た方がアイドリングをすれば冷暖房も使えるということで、積極的ではなくさまざまな事を考えた上で消極的な理由で車中泊を続けてしまうというパターンにはまってしまうことになってしまうかも知れません。

 現在は車を改造したり道具を使ったりして車の中をフラットにして家族が足を伸ばして寝られるようにしている方も多いでしょう。そういう方々がする車中泊ならそれほど問題になることはないと思いますが、東日本大震災では避難所に行きたくないということで、わざわざ狭い車の中で座席に座ったまま長い期間車中泊を続けるような人たちが出て、エコノミークラス症候群と診断される事が多く起こっていました。ひどい場合には死に至るようなケースもあり、災害で助かった命が失われてしまうという最悪の結果も少なくなかったと聞きます。何とかそうした悲劇を防ごうということで、そのための一つの方法が紹介した避難所におけるベッドの設置による居住環境の改革というわけです。避難所へ行けばそれなりに快適な環境があるということがわかるだけで、避難しようかどうしようか迷っている人たちへの後押しにもなります。あえて無理な車中泊をしようとする人が減るだろうということは言うまでもありません。問題なのはこうした避難所の住居環境を挙げるためのツールがあるということを多くの人たちが知らないことでしょう。実際に災害が起こった場合でも、知らなければダンボールメーカーに事前に供給を頼むこともできないので、メーカー側も必要としている場所に送る手立てがありません。結果、以前と同じような避難所生活を過ごすことが繰り返される恐れもあります。

 今回の展示会は避難所の居住環境をこれだけ上げられるということのアピールの一環ということなのですが、避難所で過ごす事が、今は少なくとも苦痛を伴うものではないということを多くの人が認知してもらうためには残念ながらこうしたイベントだけでは不十分であることも事実です。しかし、今後の展開によっては多くの方から認知されるようにならないとも限りません。

 今回のプランは大規模な地震による被害を想定して作られたものですが、日本の自然災害というのは何も地震だけではありません。集中豪雨や台風、最近では竜巻でも被害が出ています。実際の被害はなくても、避難勧告が出る場合はかなりあって、そのたびに避難所として開放された学校や公民館の映像がテレビで流れます。もしそうした映像の先に紹介したベッドが置かれていて、不安ながらもちゃんと手足を伸ばして休める状態があるのを見た人たちは当然あれは何だ? ということになるはずです。大雨や台風の被害によって陸の孤島となってしまう危険性のある集落に向けて、まずは備蓄用としてこうしたベッドキットを売り込むなり配布なりをしていくことによって普及を図り、テレビの災害報道の中からでも認知度を上げていくような取り組みもあってはいいのではないかと思います。


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災害時の「車中泊者」を避難所に誘導するために」への4件のフィードバック

  1. acefeel 投稿作成者

    なるほど これは いいですね。ゆっくり 寝れそうです。
    体育館は ホコリっぽいから 車中泊やテントのアウトドア避難の方が いいなぁと思ってたよ。
    掃除用具部屋に ギュウギュウに 押し込まれた ペットといっしょの 家族の
    方々 に テントや 車中泊できる車を 早く 提供して 欲しい思った。 
    今後は 車中泊やテントで 避難したいと考えてる人は それなりに 準備しなくちゃね。

  2. てら 投稿作成者

    このベッドを企画していく上で、ベッドの高さをそれなりにしているのは埃対策ということもあるとのことです。それでも、埃は舞いますからマスクと口内のケアをする対策は必要でしょう。
    あと、ペット同伴の方はこのベッドで一緒に寝るわけには行かないでしょうから、やはり何らかの対策は必要でしょう。
    http://www.komeri.com/topic/CKmSfFeaturePage.jsp?dispNo=005001005001016&SACRL
    上記リンクのように、小型犬だったら避難所の方に頼んで部屋を確保してもらうなり、犬だけ車の中に入れるなどして居住スペースを確保しつつ、支援物資で届いたダンボールを使って犬の居住スペースを作るという方法もあります。用意をしておくのはもちろん大切で、私もいろいろやっていますが、最悪の場合着の身着のままで逃げなければいけないことも考えられるのことです。何もなくても何とかしてしまう知識というのも持っていて邪魔にはなりませんし、いろいろ知っておくのも大切です。

  3. 出雲の阿国 投稿作成者

      密集した空間に、可燃性の高い段ボールを大量に持ち込むことの危険性を考えないのか?
    東京理科大学の研究チームが、段ボールベッドの危険性を認識して、可燃実験を行っている。
     しかも、その結果はネット上に公開されている。
     全く同じではないが、以前東海道新幹線の列車内で、焼身自殺を決行した男がいた。
     全く関係のない、後部のトイレブース内で女性が気道の火傷をおって亡くなった。
     密集空間での、可燃物についてもっと検証する必要があるのでわ??

  4. てら 投稿作成者

    出雲の阿国 さん コメントいただきありがとうございました。
    紙でできたダンボールの可燃性についての問題についてはおっしゃるとおりです。もし、避難所で多くの人が使える分量のダンボールを「備蓄」していたとしたら、地震による火事が起こった場合に延焼範囲が広がることになり、多くの人命が危険にさらされることにもつながるでしょう。
    ただ、今回紹介させていただいたダンボールベッドについては災害が起こった後で災害のない工場で作られたものを搬入するというシステムを採用しているので、一番の危険がある状況については回避できるように考えていたのかもしれません。
    もう一つの問題として、出雲の阿国さんが指摘されている避難民が生活をしている時にどうするかということは当然あると思います。災害の起こる時期が夏か冬かで危険性は変わってくると思いますが、夏であるなら、夜間の明かりに火を使ったランプの使用を禁止し、代替えのライトを行き渡らせるようにするようなことで、火事の原因自体を減らすことはできると思います。問題はたとえ避難所で禁止したとしても、暖を取った調理で火を隠れて使うことによる火災の可能性です。
    もともと、こうしたダンボールベッドを避難所に整備するという考えに至ったのは、災害時に車の中に避難し、手足を伸ばして寝られないことから起こる「エコノミークラス症候群」で死亡する例が多く出たためなので、より血栓が溜まりやすい年配の人を分散させてダンボールベッドだけが並ぶスペースも分散するとか、自治体にお金があれば海外でよく使われるキャンプ用のベッド(コット)を大量に発注し避難所に常備するとkいろいろ方法は考えられます。
    ただ、こうした対策も予算の都合で実現できないとなれば、フラットで寝心地も悪くない寝床をなんで代替えするかということになってきます。元エントリーを書いたのはおよそ5年前ということで、情報が古くなってしまったことは否めませんが、もしダンボール以外に安く作ることができる不燃材料を使ってベッドが作れるのなら、まだどこで起こるかわからない災害にも安心なものになるのですが。でもそううまいこと行かないのも事実なわけで、今後の災害対策については今回の出雲の阿国さんの提言も頭のなかにいれつつ、いかに安全な避難所を作っていくかということを考える必要が出てくるでしょう。

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