昨日の新聞の訃報欄で、CMディレクターの椙山三太氏が亡くなられた事を知りました。椙山さんのお知り合いの方のブログによると、数年前に脳溢血で倒れ、ずっと意識がなかったとのことですが、全くそのような状況にあったことを知らなかったので、突然のことでびっくりしました。新聞やネットニュースの紹介では大橋巨泉氏の「ハッパふみふみ」の万年筆のCMや、サミー・デービス・ジュニアのウィスキーのCMが代表作という風に紹介しているところがほとんどです。しかしながら私としてはやはりホンダ「シティ」のCMを作った人としての印象が大変強いので、なぜこのことがあまり出ていないのかというところについ不満を持ってしまい、こんな文章を書く気になりました。
コマーシャルで紹介される以前も、UKでは出す曲がことごとくチャートインする活躍をみせていたバンド「マッドネス」も日本での知名度はそれほど高くなかったため、このコマーシャルによって知った方も多かったでしょう。聴いていてとにかく楽しくなるようなサウンドは、このコマーシャル用に作られたもので、何と作曲者はマッドネスのメンバーではなく、井上大輔氏だと聞いてまたびっくり。私はそれまで日本のポップミュージックというのはアメリカやUKのものと比べてはまだまだ太刀打ち出来ないのではと思っていたのですが、この事実を知って日本の音楽業界についての認識が変わりました。ムカデ競争のようなパフォーマンスは以前から行なわれていた彼ら独特のもので、コマーシャルのために作られたものではありませんが、スポンサー名を連呼する手法や楽器を持って行列するのはチンドン屋さんを連想させ、当時から見ても古くさい手法であったに関わらず、出演者と音楽・演出をうまくアレンジすることにより実に新しく、見ていてワクワクするようなコマーシャルに仕上げた腕というのは、さすがだなと当時から感心して見ていたことを思い出します。
そして、忘れてはいけないのは「シティ」自体の車としての魅力です。当時はまだ本田宗一郎氏がホンダの経営者として活躍していた時期でしたが、この車は当時の若手社員がすべて取り仕切って作った新たなコンセプトの車ということで、その魅力を知らしめるためのテレビコマーシャルの威力は絶大でした。従来の乗用車と違った背の高いスタイリングに、「モトコンポ」というスクーターをハッチバックを開けて出し入れできるという遊びのための車というイメージを十分に伝えていたのではないかと思います。これ以降背が高く収納を充実した車の面白さが認知され、それがホンダだけの事ではなく、メーカーは違いますがワゴンRや新型ソリオ、ダイハツムーヴのような一連の車にも影響を与えたのではないかとすら思います。
今後、こうした人をワクワクさせてくれるような車が出てくるのかどうかはわかりませんが、車を作っているメーカーの力だけではなく、さまざまな人たちが評価することによってよりよく変化するというのは、このシティから派生して行った多くの車が出てきたということにちゃんと表れています。しかし現在、そうした安定の上にあぐらをかいたままで冒険をしなければ、新車販売も尻すぼみになっていくのではないでしょうか。単なる燃費がいい車をその性能を中心に紹介するのではなく、こんな面白いことができるという強烈なメッセージを消費者に訴えかけるような車のコマーシャルを私は待っています。できればシートアレンジで車中泊がしやすい車であればさらに嬉しいですが(^^;)。